「え、ええと……? 泥棒が入って、でも、なにも盗まれていない……?」
「あっ、それよりなんだよ、こいつら。客人か?」
あわただしいやりとりにぽかんとしていたとは、自分たちに話題がふられていることに気がついて、はっとした。
「あ、ぼくの名前はで、こっちは妹のです。えっと……」
それから助けを求めるように郵便屋の顔を見ると、アルノに胸ぐらをつかまれたままの郵便屋はにっこりと笑った。
「アルノ、街の人たちには、たちは僕の遠縁の親戚だと説明しました。でもほんとうは、彼らは記憶を失ってしまって、困っているところなんです」
「なんだ、それなら記憶がもどるまで、『うち』で暮らせばいいじゃないか」
アルノは郵便屋と同じことを言うと、郵便屋から手をはなして、家のとびらを開けた。
「おーい、ロミィも出てこい。新しい家族だぞ」
しばらくすると、金色の髪を三つ編みにした少女が、そっと家のなかから顔を出した。
彼女はアルノよりも、さらに年下のようだ。
「こいつはロミィ。耳は聞こえるけれど、声が出せないんだ。ロミィ、こいつらはと。今日からいっしょに暮らすんだってさ」
ロミィはぱっと表情を明るくすると、とのそばまで駆けてきて、それぞれの手をぎゅ、と両手でにぎった。
「……アルノとロミィも、わけがあってこの家で暮らしています。でも、僕は日中、仕事でほとんど家にいません。部屋を貸す代わりと言っては図々しいかもしれませんが、彼らの世話をしていただけると、僕としてはとても助かるんです」
郵便屋が言った。
もちろん、それは口実であって、郵便屋が自分たちに気を使ってくれているということはたちにもわかっていた。
とは顔を見合わせると、くすりと笑ってうなずいた。
「……では、お言葉に甘えて、しばらくのあいだお世話になります」
その言葉を聞いた郵便屋は満足気にほほえむと、アルノに言った。
「それでは、なかに入って、あらためてくわしく聞きましょうか。……その、泥棒の話とやらを」