推移 -- 04


「……うっ……ぅ……っ!」

詩良は体の奥から這い上がってくるような痛みに、ただひたすら耐えていた。
そんな詩良を見て、鷲村はそこではじめて、詩良に興味を示したようだった。

「……どうして、命いをしない?」

鷲村の質問に答えるために、詩良は何度かおおきく呼吸をした。

「……っは……そ、そりゃあ、長生きは……したいよ?」

血も汗も、止まらない。
傷口は、まるで焼けた鉄を押し当てているかのように、熱い。

詩良はぐったりとしながら、それでも言葉に力を込めて、言った。

「でもさ……とつぜん目の前に現れたあんたなんかよりも先に、思い出しちゃうんだよね。
去年、この上の階から落ちて死んだ、同級生のことをさ……」

ずっとこころの奥底にしまっていたものが、痛みといっしょにあふれ出す。

あのとき、かなしいなんて思わなかった。
あっさり死ぬなんて人騒がせなやつ、とさえ思った。

そうしてこの1年、自分で自分を罰することなく生きてきた。
正直者がばかを見る世の中で、卑怯者の自分がみにくく生き延びた。

だから詩良は、ようやく与えられたこの痛みに、どこか安堵を覚えていた。

因果応報。

きっと自分は、待っていたんだ。
いや応なしに、自分の罪を罰せられるこの瞬間を。

詩良は顔を上げると、汗と涙が交じった顔で、ほほ笑んだ。


「だからお兄さん、あたしのこと、……もっと傷つけていいよ」


瞬きと同時に、涙がほおを伝う。


死んで対等になれるなら。
それもまた、悪くない。