取引(b)


学園の校門からすこし離れた場所に、ステーションワゴン型の車両が止まっていた。
その車両のまえには、革のジャケットを着たひとりの女が立っていた。

女は深神のすがたを認めると、すぐに駆け寄ってきた。

「姫ちゃん、たいへんなことになったわね。……この人は?」
「私の運転手だ」

運転手と紹介されてムッとするも、 ここで記者と名乗ってもややこしくなるだけだろうと、玲花はぐっとこらえて、頭をさげた。

「……はじめまして、六路木玲花といいます」
「警視の島田志摩子(しまだ・しまこ)よ、どうぞよろしく。それで状況なんだけれど……まずいわ」

志摩子は胸の前で腕を組んだ。

「部隊を突撃させようにも、月見坂学園のセキュリティが完璧過ぎてどうしようもないの。 去年の夏ごろに生徒から進言があってね、警備システムを一新させたらしいんだけれど、逆手にとられたわ。 ……蛇足だけれど、進言したのは赤月誠君ね」

玲花がぴく、と反応するとなりで、深神はかまわず先をうながした。

「それで?」
「せめて犯人がいる位置がわかれば、逆側からしかけられるんだけれど、いまは無理だわ。 学園に残っている生徒たちがどこにいるかもわからないし、警察はようすを見守ることしかできない」
「そうか、わかった」

深神はうなずくと、えりもとのネクタイをゆるめた。

「セキュリティ以外は昔のままか?」

玲花がおどろいて、深神を見上げた。

「も、もしかして乗りこむ気ですか!? ……学校のなかへ!?」

しかし、志摩子はというと、特に気にするそぶりも見せなかった。

「内部構造は確認中だけれど、たぶん、そこまでは変わっていないでしょう。 なにか協力できるようなことがあれば、言ってちょうだい」
「助かる」

玲花はぼうぜんとした。

警察さえも簡単に動かすばかりか、逆に頼られているなんて。
……この探偵は、いったいなに者なの?