「……こんな状況じゃなきゃ、女の子とふたりっきりで最高だったんだけどなー」
「そんなにどきどきしたいなら、逆に滅多にないチャンスだと思うけれど?」
蒼太たちの次に教室を出たのは、朔之介ともこなだった。
ふたりは小声で話をしながら、注意深く廊下を歩いていった。
「……職員室に行くのは、どうかしら。あそこには、どの教室にでも入れるマスターキーがあるはずだわ。
ダミーの教室にいくつかカギをかけて、そのうちのひとつに隠れれば……」
「名案だが、いまはあぶないだろうな」
朔之介は言った。
「俺が犯人でも、まずははじめにマスターキーを確保する。目的が同じなら、はち合わせしちまう」
「……考えれば考えるほど、動けなくなるわね」
先ほど犯人がいたと思われる放送室は、いま朔之介たちがいるA棟の一階にある。
ひとまずはすこしでも犯人と距離をとるために、朔之介ともこなは上の階へと移動した。
「……ほんとうは、あちら側へ行きたいけれど」
四階までのぼったところで、廊下の窓のそとに見えるB棟を見つめながら、もこなが言った。
朔之介たちのいるA棟は、向かい側のB棟と中庭を挟んでエの字型をした作りになっているが、
ふたつの建物を繋いでいるのは、一階と三階の柵と屋根しかない野ざらしの連絡通路だけだ。
「あの通路を歩くのは、すこし目立ちすぎるわね」
「……お、鹿波。図書室のカギが開いてるぞ」
朔之介が言いながら、そろりと図書室のとびらを開けた。
夕暮れどきが近づいていて、立ち並ぶ本棚のかげは不気味に床にのびている。
しかし、もちろん電気をつけるわけにもいかないので、ふたりはそのまま、おそるおそるなかへと入っていった。
朔之介はいちばん奥の本棚までやってくると、そこにしゃがみこんだ。
「……ここに隠れよう。ここなら万が一に犯人に見つかっても、うまく時間をかせげる」
そうしてふたりは、本棚のかげに隠れて、息をひそめた。