発足(i)


「……わお。……あの同好会に、とうとう五人のメンバーが集まったんだ?」

蒼太のクラスの副担任、兎沢が言った。

蒼太たち五人は、職員室にやってきていた。
放課後の職員室には先生もほとんどいなかったが、運よく兎沢が残っていたのだった。

「五人そろうと、いいことがあるの?」

緋色がふしぎそうにたずねたので、兎沢がにやりと笑った。

「もちろん。お金がもらえるし」
「えっ?」

目を丸くする緋色に、兎沢が続けた。

「メンバーが五人以上になると、同好会ではなくて部活として認められるの。 部活だったら区から補助金が出るからね。……これで、より手広くミステリについて『研究』できるね」

兎沢はミステリ同好会の内情も知っているらしく、そんな皮肉を言った。
それから机のなかから用紙を取り出すと、そこになにかを書きこんでいった。

「……これでよし。顧問には私がなってあげるから、明日にでも部室を紹介してくれるかな。部の名前は、ミステリ研究部にしておくね」
「あ、は、はい。お願いします」

青空が遠慮がちに言った。

兎沢はさらさらと、整った文字で用紙の項目を埋めていくと、最後にぽん、とハンコを押した。
そしてその用紙を確認しながら、兎沢は言った。

「高等部二年の西森蒼太、宮下緋色、中等部二年の鹿波もこな、下水流詩良、西森青空。 以上の五名と顧問の兎沢で、本日よりミステリ研究部を発足します。……はい、はくしゅー」

蒼太たちはそれぞれ顔を見合わせたあと、ためらいながらもぱらぱらと拍手をしたのだった。