マフラー(b)


放課後、僕は紺を迎えに行くために、翠と合流した。
道端で、翠は一度だけ、僕の顔を見上げて瞬いた。

「和也、ほんとうに私と一緒に帰るの?」
「え? だって、今までもそうしてきたじゃないか」

それから僕は、ふとクラス対抗発表会のことを思い出した。

「そういえば、今日、B組ではクラス対抗の出し物を決めたんだけれど。A組は、もう決まった?」
「……ええ」

それから翠はすこしだけ、いたずらっぽい顔をした。

「当ててみる?」
「……ということは、まず当たらない出し物、ってことか」

僕は考えた。
A組には、陽気な生徒が集まっている。ノリがいいし、なによりあの、奇想天外なオワルがいる。

「そうだな……、じゃあ、ミュージカルとか」

彼女たちなら、劇だけでは納まらずに、歌って踊り出しそうなイメージがあった。
翠はふふ、と笑って言った。

「惜しいけれど、はずれ。正解はね……、性別逆転現代物おとぎ話ミュージカル」
「……それは、たしかに当たるわけがないな」
「いくら詰め込んでも、足りなかったみたい」
「翠の役は?」
「ナレーション」
「ずるくないか、それ……」

そんな話をしているうちに、僕たちは古山小学校の近くの児童館へと着いた。
門をくぐり、屋内で遊んでいる児童のなかから、紺を探す。

「紺」

翠が優しく呼ぶと、それまで本を読んでいた紺は、ぱっと顔をあげた。

「……お姉ちゃん! 和也お兄ちゃん!」
「あれ、今日は疑問系じゃあないんだな」

駆け寄ってきた紺の頭を撫でながら、僕が言うと、

「うん、だってお姉ちゃんの隣にいるのは、いつも和也お兄ちゃんだもん!」

紺はそう言って、僕の足にじゃれるようにしてしがみついてきた。
それから、ふと動作を止めて、じっと入り口の扉のほうを見つめた。

「紺、どうした?」
「ううん、なんだか……」

とたん、紺は少し心細そうに、僕の制服の生地を強く掴んだ。

「……なんだかそこに、お化けがいそうな、気がしただけ」