落としもの -- 04


ミカミは口元に人差し指を当てながら、言った。

「……ピアノ弾きが、自らその『センターピン』を交換することは?」
「まず、ない。少なくとも、縫針先生にそんなことはできない」
「それなら」

ミカミは顔を上げた。

「あの場にこれが落ちているのは、おかしい。
……調律師の服のどこかに引っかかっていたものが、なにかの拍子に落ちるでもしなければ」
「で、でもっ」

僕の声は、思わずうわずった。

「雀さんは、昨日縫針先生を発見したときに、いっしょに……」

そのとき、僕は気がついてしまった。

『雀さんは、あの部屋に入っていない』。

僕の表情の変化を見て、ミカミもうなずいた。

「そうだ。あの部屋に入っていないのに、センターピンが落ちているはずがないんだ」
「そんな……」

僕はそれきり、言葉が出てこなくなった。

まさか、あの雀さんが、縫針先生を殺した?
あのふたりの仲が悪いことなんてあっただろうか?

おかしい。
そんなこと、あるはずない。

「でも、僕……」

証拠だけを追えば、どうしても雀さんが犯人になってしまう。
それでも僕の中で、どこか違和感を拭いきれなかった。

雀さんは音楽が好きな調律師で、縫針先生は音楽が好きなピアノ講師で。
ふたりが僕に向けてくれたまなざしを思い出しながら、僕は言った。

「根拠はまったく、ないんだけれど。雀さんは……犯人じゃないと思う」