ミカミは口もとに人さし指の背を当てながら、言った。
「……ピアノ弾きが、みずからその『センターピン』を交換することは?」
「まず、ない。少なくとも、縫針先生にそんなことはできない」
「それなら」
ミカミは顔を上げた。
「あの場にこれが落ちているのは、おかしい。
……調律師の服のどこかに引っかかっていたものが、なにかの拍子に落ちるでもしなければ」
「で、でもっ」
僕の声は、思わずうわずった。
「雀さんは、きのう縫針先生を発見したときに、いっしょに……」
そのとき、僕は気がついてしまった。
『雀さんは、あの部屋に入っていない』。
僕の表情の変化を見て、ミカミもうなずいた。
「そうだ。あの部屋に入っていないのに、センターピンが落ちているはずがないんだ」
「そんな……」
僕はそれきり、言葉が出てこなくなった。
まさか、あの雀さんが、縫針先生を殺した?
あのふたりの仲がわるいことなんてあっただろうか?
おかしい。
そんなこと、あるはずない。
「でも、僕……」
証拠だけを並べると、どうしても雀さんが犯人になってしまう。
それでも僕のなかで、どこか違和感をぬぐいきれなかった。
雀さんは音楽が好きな調律師で、縫針先生は音楽が好きなピアノ講師で。
ふたりが僕に向けてくれたまなざしを思い出しながら、僕は言った。
「根拠はまったく、ないんだけれど。雀さんは……、犯人じゃあないと思う」