落としもの(b)


学校に来たものの、ミカミは授業を受けるつもりはさらさらなかったらしい。
どのみち、今日の授業は自習に近いものだろう。

僕とミカミはB棟には向かわず、こっそりと部室棟へ忍びこんだ。

この時間、僕たちと同じように授業をさぼってまで部室棟にやってくる人間はまず、いないだろう。
しかし、念には念をということで、部室棟のなかでも空室になっていた、二階の一番奥の部屋へと足を踏み入れた。

部屋の広さは八畳ほどで、そこまで広くはない。
部屋の片面にはスチールでできた棚が置かれていて、そこにはびっしりと物がつまっている。

僕とミカミは、長机のまえに置かれたパイプ椅子に、それぞれ向かい合うようにして座った。

「では、いまわかっていることをすべて、彩人に話そう」

ミカミが話し始めた。

「まず、亡くなったのは縫針琴子。死因は、背後から刺され大動脈を損傷したことによる失血死。 犯行現場は、まずあの特別活動室と見てまちがいないだろう。 殺したあとにわざわざあそこに運びこむのはリスクが高いし、非現実的だ」

そしてミカミは両手を組んで、口もとをかくした。

「次に、犯行に使われた凶器だが……、あの包丁、どうやらこの学園の家庭科室のものだったらしい」
「……となると、現地調達した、ってわけか」

僕は顔をゆがめた。

「そうなってくると、学園内部の構造も、よく知っている人間ということになるね」
「ああ。犯人は学園と、縫針先生のことをよく知っている人物。……そして……」

ミカミはポケットから、小さな密封袋をとり出した。

「現場に落ちていた『これ』が、どうも引っかかる」
「そういえばきのう、なにかを拾っていたね。ちょっと見せて」

僕はミカミから密封袋を受け取った。

密封袋は透明で、そのままなかを見ることができた。
一見、なにも入っていないようだったけれど、目をこらしてみると、なかには短い針のようなものが入っていた。

「ん? これって……」
「なんだ、彩人。なにかわかったのか?」

僕はまじまじとその針を見つめた。
……これってひょっとして、『あれ』じゃあないかな。