誘拐 -- 05


ルカはナツといたるにうなずいてみせると、向こうの男ふたりに声をかけた。

「おーい! そこのおふたりさん、なにをしているんだ?」

男たちはルカのほうに目をやった。
そしてそのかたわらにナツといたるがいるのを見て、封太がおどろいた表情を見せた。

「なっ……きみたち、どうやってここへ?」
「知り合いですか?」

いぶかしげにスーツの男が封太に問いかけ、封太は首を振った。

「いや、遠目に見かけただけだ。……警察署に駐禁の反則金を支払いに行ったときに、ね。
昨日、なんとなく話を盗み聞きしていたら私のことだったのでおどろいたよ。
たしかにここ1か月は、私に電話がかかってくることはなかった。
ふたりの話ではじめて、私の電話回線になにが起きているのかを知ったんだ」
「……じゃあ、あなたがわざとこの子の電話に転送設定したわけではない、と?」

ルカがたずねると、封太はうなずいた。

「そんなこと、するはずがない。転送電話だってお金がかかるのに」

なんともみみっちい理由だった。
理由はともかく、封太はしみじみと言った。

「……スマートウォッチが普及しだしてから、ごくまれにあるんだよ。
スマートウォッチに『他人の電話番号と同じ番号が割り振られてしまう』ことが。
これはシステム上の欠陥なんだが、自分の持つスマートフォンの番号がA、スマートウォッチの番号がBだとすると、そのAとBの両方から電話を受けることができてしまう。
ただ、大抵の人はスマートフォンの番号Aをシェアして使うから、スマートウォッチ本体がBの電話番号を持っていることを知らない」
「……そこまでわかっていて、どうしてぼくにいたずら電話を?」

いたるがたずねると、封太は目を泳がせながら言った。

「せ、せっかくこんなめずらしい偶然が重なったんだし、ちょっとからかってみるのもおもしろいかなと……も、もちろん、ほんとうにお金を受け取る気は微塵みじんもなかったぞ!」

その発言に、スーツの男があらためて汚いものを見るかのように封太を見た。

「やっぱりゴミじゃないですか」
「ひぃっ! け、蹴らないで……」
「蹴りません。子どもの前では極力、そういうのはしたくありませんから」

それから、スーツの男がナツたちのところへと歩み寄ってきた。
ルカは腕組みをしたまま動かず、ナツといたるはそんなルカの後ろにそっと隠れた。

男はその場に片膝をつくと、ナツたちの視線に合わせて言った。

「どうしてこの場所が?」
「あ、あの……ごめんなさい。車のあとをつけました……」

いたるがちいさな声で言うと、スーツの男は笑った。
笑ってみれば、まだ幼さが少し残るような、封太と同じ年頃の青年だった。

「筋のいい探偵団ですね。あなたがたに免じて、イクマさんを解放します」

それからスーツの男は立ち上がると、ルカをちらりと見た。

「ということなので、通報はしないでもらえますか?」
「おまえの名前を教えろ。それで今回は目をつむっておいてやる」

スーツの男はうーんと考えたあと、言った。

「暴対法、活用しようとしてます?」
「してないしてない。あるならさっさと出せ」

ルカに促されたスーツの男は、胸ポケットから金属の名刺ケースを取り出すと、ナツといたる、それぞれに渡した。
名刺には、「海嶽かいがく会 延寿えんじゅ一水いっすい」と書かれていた。

スーツの男……一水は、ナツといたるに言った。

「今回はこわい思いをさせてしまってすみませんでした。
埋め合わせに、今後なにか困ったことがあったら呼んでください。
俺の得意なものは暴力です。暴力で解決しそうなことならぜひ」
「……へんなことを吹き込むなよ」

ルカにあきれた声で釘を刺されても、一水は笑みを崩さなかった。

「あと、イクマさんが逃げ出さないように監視をお願いします、探偵さんがた」

そして一水は、封太をその場に放置したまま車に乗り、じゃりじゃりと砂煙を巻き上げながらどこかへ走り去ってしまった。