僕と緋色は、いまから高校に行くよりも、深神さんを頼って調べてもらったほうがいい、という結論にいたった。
僕たちは遊園地をあとにすると、地下鉄に乗って池袋までもどってきた。
地下鉄の駅から地上へ出てきたところで、
「ねえ、手をつないでもいい?」
緋色がそう言って、僕がそれに答えるよりもはやく、彼女は僕の手を取ってにぎった。
思いのほか、ひんやりとしている緋色の手は、細くてか弱い。
そして緋色と手をつないだのは、実はこれがはじめてだった。
「今日は楽しかったよ。ありがと」
緋色が純粋な笑顔で笑う。
僕は一瞬、彼女に見とれた。
そして頭で考えるよりも先に、言葉が先に出た。
「僕も楽しかった。またふたりで遊びに行こう」
その言葉に、緋色はうれしそうににっこりと笑った。
「うんっ! 約束。ぜったいに、約束ね」
そして緋色はぎゅ、とまるで大切な宝物を手にしているかのように、僕の手を強くにぎった。
「緋色、おかえり。そして西森少年はひさしぶりだな」
深神探偵事務所では、深神さんがすぐに出迎えてくれた。
深神さんは長身なので、僕は自然と見上げる形となる。
スーツにネクタイをしめている彼は、細身だけれど威圧感があった。
「こんにちは、おじゃまします。ハルカは?」
「外で仕事中だ。あの子のフットワークの軽さは頼りになるからな。まあ、もうすぐ帰ってくることだろう」
「そうだったんですね。……それで、例の大量に買ってきたっていうケーキは……」
「ああ、きちんとふたつ、残してあるぞ」
「深神先生! もうふたつしか残っていないんですか!?」
緋色がとなりでおどろいている。
たしかに、僕がかつて過ごした七月四日の記憶では、ケーキの数は二ダースほどはあったはずだ。
そのときも、僕が救援に来たとはいえ、そのほとんどを深神さんが食べてしまったのだけれど。
「あ、深神先生。ちょっと話があるんですけれど、いいですか?」
緋色の言葉に、深神さんがうなずいた。
「ああ。……それでは西森少年、すこしのあいだ、そこのソファに座って待っていてくれ」
「あおちゃん、テーブルの上の飴は食べてもいいけど、チョコはだめだよ! 私のだから!」
「はいはい、食べないからはやく行ってこい」
深神さんと緋色は、ほかの部屋へと移動していった。たしか、あの部屋は深神さんの部屋だったはずだ。
事務所のなかには、この待合室兼仕事場のほかにも、いくつか部屋がある。
そのうちのみっつはそれぞれ深神さん、緋色、ハルカの部屋としてあてがわれている。
しかし、三人とも自室より、この場所にいる時間のほうが多いように見えた。
僕はソファに座ると、テーブルの上に置かれたお菓子の入ったカゴを自分のほうへと引きよせた。
なかには色とりどりの飴が入っていて、そのなかにひとつだけチョコレートが入っている。
なるほど、最後の一個だから、緋色は僕にクギをさしたのか。
僕がそのチョコレートを口にふくんだところで、深神さんと緋色が出てきた。
「あおちゃん、私ちょっと出かけてく……って、あああーっ! チョコ食べたー! 私のチョコだったのに!!」
「すごくあまくておいしい」
「うわぁん、覚えてろおー!」
本気で涙目になって、緋色は事務所から飛び出していった。
……うーん、ちょっとからかい過ぎたかな。