7月7日(月) 8時25分 -- 04


長い髪の少女は、おおきな瞳に怯えを宿して僕を見ていた。
半袖の白いシャツに紺色のベスト、ブルーグレーのリボンに紺色のプリーツスカート。

その制服に、僕は見覚えがあった。
僕が通っている虹ノ端大学の、附属高校の制服だ。

少女はというと、体を固くして身構えていた。
彼女から見れば、僕はつい先ほどまで路上で叫んでいた、得体の知れない男なのだ。警戒されても無理はない。

僕はあわてて立ち上がり、ズボンの膝部分についた汚れをはらった。
まだ痛みを感じる拳をもう一方の手でかばいながら、やっとの思いで声を出した。

「あ、その……」

僕ののどは、からからに乾いていた。
叫びすぎたせいか、うまく声が出てこない。

言うべき言葉すら思いつかず、ちいさく咳き込んでしまった僕の姿を見て、少女はわずかに緊張を解いた。

「……よかったです、人がいて。朝からだれもいなかったから」

少女の声を聞いた瞬間、生きているという感覚がやっとよみがえってきた。
僕はようやく、自分が汗をかいていたことに気づいた。

額の汗をぬぐって、僕は少女にたずねた。

「……君、いままでだれにも会わなかった?」
「いろんな場所をたくさん歩いたんですけれど……あなた以外は、だれも」

そして少女は言った。

「……私の名前は、村崎みずきです」

少女……みずきは、ぺこりと頭を下げる。
彼女にならい、僕も名乗る。

「僕は、西森蒼太。虹ノ端大学の学生だ」
「蒼太……さんは、いつから気がつきましたか? 世界にだれもいないって」
「ついさっき。学校に行ってみてもだれもいないし、まさかと思って駅前に来てみたら、このとおりだよ」
「ということは、夜のあいだに、みんな消えてしまったんでしょうか……」

そう言って、みずきはうつむいた。

「みんな……どこに行っちゃったんだろ……」

僕は彼女を安心させようとぎこちなく笑顔を作り、右手を差し出そうとした。
しかし先ほどケガを負っていたことを思い出して、差し出す手を左手に変えた。

「とにかく、ひとりじゃない。それだけでじゅうぶんだ」

みずきは少しだけ、おどろいた様子だった。
しかし僕の手をおずおずと握ると、そっともう片方の手をそえた。

「あの……手、このままつないでいてもいいですか?」

みずきが言った。その手はわずかに震えている。

「僕の手でよければ、いくらでも」

そう笑ってみせると、みずきもかわいらしく笑い返してくれた。