「あはは、ばれてしまったかー」
マンションに帰ると、おとなりさんは先に帰宅していた。
……それもなぜかおとなりではなく、ぼくの部屋に。
お茶のひとつでも出したいところだったけれど、ぼくの部屋にはなにもない。
しかたなく、ぼくはおとなりさん……メイ・エリオットに水を出す。
メイさんは、いつもへんなデザインの帽子をかぶっている。
透きとおるようなきれいな銀髪を持っている彼女は年齢不詳だが、見た目は妙齢の美人だった。
メイさんは水を一気に飲み干すと、口もとを手の甲でぬぐいながら言った。
「ぷはーっ、おいしい! マキシの部屋の水道水!」
「おとなりでも、まったく同じ味の水が飲めますけれど……」
それにしても長い時間、米坂邸におじゃましてしまった。
そとはまっ暗で、時刻はすでに十時を回っていた。
ぼくは彼女の前に正座すると、しかめっつらを作ってみた。
……これですこしは怒っているように見えるといいんだけれど。
「……ぼくをからかうにしては、今回のことは度を越えています」
「あはは! ごめんごめん、でも、マキシならぜったいにやりとげると思ったんだよねー。
サバトがらみならカオルも食いついてくると思ったし、ヨネザカはいい物件だったでしょ?」
たぶんそれを聞いたら、米坂さんがとても悲しむと思う。
ぼくはため息をついた。
「くるみさんに、米坂邸の盗品の情報を前もって流したのも、あなたですね」
もしくるみさんがぼくの予告状を見たときに、
はじめて米坂さんの屋敷に忍びこもうと計画したのだったら、いろいろとつじつまが合わなくなる。
くるみさんがすでに時計を壊して時計屋さんを呼んでいたことも、
屋敷内の間取りをくわしく知っていたことも、なにもかもが不自然だ。
おそらく彼女はサバトの絵画ではなく、ほかの盗品が目当てだったのではないかと思う。
そしてくるみさんの気まぐれで、……もしかすると、いざというときのおとりにするために、
ぼくたちはまんまと彼女の計画の片棒をかつがされたというわけだ。
……米坂さん、いまごろほかの品まで奪われていなければいいけれど。
「あはは、すべての事件はこのメイ・エリオットの手のひらのうえなのだー! 『賭け』にも勝って、大勝利、だな!」
メイさんは満面の笑みで、ぼくの背中をばしばしと叩いた。
結局、この探偵がすべての仕掛け人だったのだ。
……やっていることは完全に黒幕のすることである。
自由奔放で、傍若無人。
これがメイさんの自由な仕事。
メイさんは身を乗り出すと、ぼくに鼻先を近づけた。
「ところでマキシ、探偵にはなんでもお見とおしなのだよ。いまのきみには、悩みごとがあるね?」
そうしてメイさんがぺらりとかかげたのは、空欄のままのぼくの進路調査用紙だった。
「今回の件を踏まえたうえで、なにか思うことがあったんじゃあないのかね?
ちなみに現在、私は助手をひとり募集しているんだけれど」
……ぼくの書きかけの解答は、どうやら無理やりにでも、この人に埋められてしまいそうだ。