十七時ちょうど。
ぼくと白河くんが画廊の連絡口から本邸に忍びこむと、すこしおくれて屋敷のなかにチャイムの音が鳴り響いた。
おそらくは、くるみさんの言っていた、例の時計屋さんがやってきたのだろう。
ぼくたちは大急ぎで二階へと駆けあがり、くるみさんに指定された部屋に転がりこんだ。
部屋の椅子に座って本を読んでいたくるみさんは、ぼくたちのことを、あのうすいほほえみでむかえ入れた。
くるみさんに、白河くんが小声でささやいた。
「おい、招待してくれたのはありがたいけれど、オレらが画廊からいなくなったことは、あの受付のお姉さんにすぐばれるぞ?」
しかしくるみさんは、すました顔で言った。
「もう伝えてあるからだいじょうぶよ。彼女はだまっていてくれるわ」
……やはり、敵の身内が味方にいるとこころ強い。
白河くんは、ぼくの顔を見た。
「それなら、……これからどうする?」
「……手分けして探すと危険が増すから、三人いっしょに行動したほうがいいと思う。使用人さんはひとり?」
「ええ」
ぼくの問いに、くるみさんがうなずいた。
「行動パターンは、だいたい把握しているわ」
そんなくるみさんに、ぼくはちらりと目を向けた。
「……わざわざこんな、泥棒じみたことをしなくても、家の人にも話を通してくれれば……」
「浅はかな脳ミソね」
ぴしゃりと言われ、ぼくは落ちこんだ。
くるみさんは低い声で言った。
「絵画はこの家に『隠されて』いるんでしょう? 娘の私だって知らないようなものを探されるなんて、この家のあるじが許可するとでも?」
たしかにごもっともの意見だ。
白河くんは、いぶかしげに言った。
「でも、おまえはそれでいいのか? 米坂さんから見たら、オレらがしようとしていることも、泥棒のようなものだけれど」
「だれにも見られない絵画なんて、かわいそうだもの。もしも不正に入手したものなら、あるべきところにもどさないといけないわ」
くるみさんはそう言うと、くるりと向きを変えた。
「むだ話をしている時間はないわ。さっさと探しましょう」
部屋から出るとき、ぼくはわずかな違和感を覚えて、ふり返った。
花がらのカーテンに、フリルのついたクッション。
くるみさんが自分たちをここへ呼んだことから考えても、この部屋は彼女の部屋のはずだ。
でも、この空気、どこか奇妙に感じる。
そのとき、ぼくは足もとでなにかがきらりと光るのを見た。
ぼくはそれを拾い上げて観察してみた。
「これは……なにかの歯車?」
手のひらのうえで、その歯車を転がしてみる。
歯車は銀色の金属でできていて、とても小さかった。
ぼくはしばらく考えたあと、それをポケットにしまいこんで、白河くんとくるみさんのあとを追った。