米坂邸 -- 03


17時ちょうど。
ぼくと白河くんが画廊の連絡口から本邸に忍び込むと、少し遅れて屋敷の中にチャイムの音が鳴り響いた。
おそらくは、くるみさんの言っていた、例の時計屋さんがやってきたのだろう。

ぼくたちは大急ぎで2階へと駆け上がり、くるみさんに指定された部屋に転がり込んだ。
部屋の椅子に座って本を読んでいたくるみさんは、ぼくたちのことを、あの薄いほほ笑みで迎え入れた。

くるみさんに、白河くんが小声でささやいた。

「おい、招待してくれたのはありがたいけれど、オレらが画廊からいなくなったことは、あの受付のお姉さんにすぐばれるぞ?」

しかしくるみさんは、すました顔で言った。

「もう伝えてあるから大丈夫よ。彼女は黙っていてくれるわ」

……やはり、敵の身内が味方にいると心強い。
白河くんは、ぼくの顔を見た。

「それなら……これからどうする?」
「……使用人さんはひとり?」
「ええ」

ぼくの問いに、くるみさんがうなずいた。

「行動パターンは、だいたい把握しているわ」

そんなくるみさんに、ぼくはちらりと目を向けた。

「……わざわざこんな、泥棒じみたことをしなくても、家の人にも話を通してくれれば……」
「浅はかな脳ミソね」

ぴしゃりと言われ、ぼくは落ち込んだ。
くるみさんは低い声で言った。

「絵画はこの家に『隠されて』いるんでしょう?
娘の私だって知らないようなものを探されるなんて、この家のあるじが許可するとでも?」

たしかにごもっともの意見だ。
白河くんは、いぶかしげに言った。

「でも、おまえはそれでいいのか?
米坂さんから見たら、オレらがしようとしていることも、泥棒のようなものだけれど」
「だれにも見られない絵画なんて、かわいそうだもの。
それに、もしも不正に入手したものなら、あるべきところにもどさないといけないわ」

くるみさんはそう言うと、くるりと向きを変えた。

「無駄話をしている時間はないわ。さっさと探しましょう」

部屋から出るとき、ぼくはわずかな違和感を覚えて、振り返った。

花がらのカーテンに、フリルのついたクッション。
くるみさんが自分たちをここへ呼んだことから考えても、この部屋は彼女の部屋のはずだ。

でも、この空気、どこか奇妙に感じる。

そのとき、ぼくは足元でなにかがきらりと光るのを見た。
ぼくはそれを拾い上げて観察してみた。

「これは……なにかの歯車?」

手のひらの上で、その歯車を転がしてみる。
歯車は銀色の金属でできていて、とてもちいさかった。

ぼくはしばらく考えたあと、それをポケットにしまい込んで、白河くんとくるみさんのあとを追った。