言葉にすることで、きらわれるかもしれない。
気持ちが伝わることで、だれかがぼくに失望するかもしれない。
……そんなことを考えていると、ぼくはいつも、なにも話せなくなった。
ぼくには、自分の気持ちを言葉にするまでに、人よりも多くの時間が必要だった。
そしてそんなぼくの言葉を、最後まで辛抱強く待っていてくれる人は、いままでにひとりもいなかった。
だから、彼……白河カオルは、少しへんな子だ、と思う。
とあるマンションの一室。
ぼくがひとり暮らしをしているこの部屋に、今日も白河くんが遊びに来ていた。
白河くんは、自分が持ち込んだゲームの攻略本を、熱心に読みふけっているところだ。
ぼくはそんな白河くんをじっと観察したり、白河くんが貸してくれた本を読んだりして、その時間を過ごしていた。
コトン。
ふいに、ちいさな物音がした。
どうやら郵便受けになにかが入れられたらしい。
白河くんは、物音に気づかなかったようだ。
ぼくは無言で立ち上がると、郵便受けを見に行った。
このマンションは、どの部屋にも玄関の扉に郵便受けが備えつけられている。
防犯のため、外に表札を出している住人は少ない。ぼくの部屋も例に漏れず、味気ない番号が振ってあるだけだ。
そのせいで、おとなりさんへの郵便物が、間違いでこちらに入っていることが何回かあった。
ぼくは内側の郵便受けのふたを開けて、中に手を入れた。すると、厚紙のようなものに手が触れた。
……取り出してみると、それは1枚の絵葉書だった。
印刷されているのは、異国風の建物だ。
ただ、それがどの国に存在している建造物かは、ぼくにはちょっと、わからなかった。
「おい、牧志。なにを見ているんだ?」
いつのまにか、白河くんがぼくの後ろから絵葉書を覗き込んでいた。
返事をする代わりに絵葉書を裏返すと、そこにはこんな文章が書かれていた。
『米坂邸に隠された、サバトの絵画をいただきに参る!』……
……やけに芝居がかった文面だった。
黒に近い青色のインクで、走り書きしたような文字。差出人の名前はなかった。
ぼくは、その文をしばらく眺めたあと、ぼそりとつぶやいた。
「……これ、たぶん泥棒からの、犯行予告……」