ココアの味 -- 05


会場には、多くの報道陣が集まっていた。
私はそのいちばん後ろで、さとちゃんの姿を見守っていた。

「まず、このたびは多くのかたにご心配とご迷惑をおかけしたことを、深くお詫び申し上げます」

さとちゃんは、長いあいだ、頭を下げたままだった。
カメラのフラッシュがたかれたあと、報道陣から質問の声があがった。

「夢追さんのマネージャーが逮捕されたということですが、そのことについてどうお考えですか?」
「亡くなった大峠社長は、いままで私のことを大切に育ててくださった恩人で、私にとっても父親のような存在でした。そんな社長を私のマネージャーが手にかけたことはとてもかなしく、くやしく思います」
「動機について心当たりは?」

また、別の記者が質問した。

「実は、そのことについて、今夜はみなさまに集まっていただきました」

さとちゃんは、しっかりとした口調で言った。

「この混乱の中、さらにご迷惑をおかけしてしまうのは承知の上です。
しかしながら、大峠社長はこのことを公表することを、亡くなる間際まで強く望んでいたそうです。
そして望んだからこそ、事実を隠そうとしたマネージャーの手によって、社長は最悪の事態に巻き込まれてしまいました。
私は今後、このようなかなしいことが起こらないためにも、そして大峠社長と私のためにも、隠しごとはしないことに決めました」

さとちゃんはおもむろに、なにかを机の下から取り出した。
……それは、なんの変哲へんてつもない、ただのハサミだった。

カメラのフラッシュが一層はげしくたかれ、一瞬辺りがまっしろになって、さとちゃんの姿が見えなくなった。
やがてフラッシュの光が少しだけ落ち着いてくると、さとちゃんはそのハサミを構えた。

ざわつく会場の中、さとちゃんはそのハサミを自分に向けて——

——ばさり、と、あのきれいな髪を切った。

呆気あっけにとられる報道陣の前で、さとちゃんはざくり、ざくり、と肩の上まで髪を切りそろえると、やがてまっすぐ顔を上げた。

「ファンのみなさま、関係者のみなさま。いままでうそをついていて、申し訳ありませんでした」

さとちゃんの目に迷いはない。
私は、なんだかいま、さとちゃんと目を合わせているような気がした。

(……さとちゃん、がんばって)

どんなひみつかわからないけれど。
私はさとちゃんを応援しているよ。いままでも、これからも、ずっと——

さとちゃんの口が、ゆっくりと動く。

「……僕、ほんとうは、男なんです」