翌日の土曜日。
ライブの開演まで、まだ二時間ある。
それなのにライブ会場まえは、たぶん私が人生で見たなかで一番の人混みだった。
私はアロマちゃんに言われたとおり、そそくさと関係者用の入り口から会場のなかへと入った。
アロマちゃんが警備員にもすでに話を通していてくれたらしく、わたしはスタッフ用の名札をもらって、それを首にかけた。
楽屋はすぐに見つかった。
なかに入ると、まだ私服すがたのアロマちゃんが椅子に腰をかけて、ファッション雑誌を読んでいた。
アロマちゃんからすこし離れたところには雨車さんが座っていて、鏡に向かいながらお化粧をしている。
「タマ! 来てくれたんだ!」
アロマちゃんは雑誌をぱたんと閉じて、ほほ笑んだ。
雨車さんもお化粧をする手を止めて、こちらを向いた。
「あらあ、昨日の子。いらっしゃい」
「ど、どうも……」
私がぺこりと雨車さんに会釈をしていると、アロマちゃんが私のそばにやってきた。
「持ってきたよー、さといの写真! ……と言っても、現像していないからデータばっかりだけど」
アロマちゃんは、デジタルカメラに入っている写真をつぎつぎに見せてくれた。
さとちゃんの写真は、華やかな衣装を身につけているものがほとんどだった。
「仕事が終わったあと、記念に写真を撮ることが多いんだ。ステージ用の衣装、どれもかわいいでしょ?」
アロマちゃんはそう言って、しばらく画面をスライドさせていたけれど、ふとつぶやいた。
「いままで気づかなかったけれど、さとい、最近の表情が……なんだか暗いね?」
それは、私も気になったところだった。
「うん……、日付を見ると、一年ぐらいまえからみたい。そういえば、たまに学校に来るときも、どこか浮かない顔をしていたかも……」
「なんで気づかなかったんだろ……」
アロマちゃんが眉を寄せた。
「……でも、今回の事件と関係はないよね? さといは犯人じゃないもんね?」
アロマちゃんが私にそう問いかけたとき、部屋のとびらが開いて、大荷物を抱えた猫本さんが入ってきた。