そのとき、どこからかふらりと現れた女の人が、猫本さんの肩にしなだれかかった。
「そんなにカリカリしちゃってえ。案外、あなたが犯人だったりするんじゃないのぉ? アロマちゃんをトップアイドルにするために、あなた必死ですものねえ」
間延びした甘い声が特徴のこの人は、アナウンサーの雨車暦(うるま・こよみ)だ。
雨車さんがすがたを見せたとたん、ふわりと花のような香りが辺りにただよった。
猫本さんはキッ、と雨車さんをにらみつけると、低い声で言った。
「……あなたのほうこそどうなんです? 若い才能に嫉妬でもして、さといさんに罪をなすりつけたんじゃあないですか」
ばちばちと音がしそうなほどにらみ合うふたりを見て、アロマちゃんはため息をついた。
「……タマ、こんなふたりの言うことは気にしないで。いろいろあって、ふたりともストレスがたまっているんだわ」
アロマちゃんはそう言うと、私の手をにぎった。
「ねえタマ、アロマの友だちになってよ! さといの話も聞きたいし、アロマ、あんまり友だちがいないから。
そうだ、明日ライブをするんだけれど、よかったら見にこない?
ライブまえに関係者入り口から入って楽屋に来てくれれば、アロマが持ってるさといの写真とか、見せてあげる!」
そう言うと、アロマちゃんはかばんのなかからライブのパンフレットを取り出した。
パンフレットにはさとちゃんとアロマちゃんのふたりの写真が、大きく掲載されていた。
「今回はさといが出られない代わりに、雨車さんが司会として参加してくれるんだ。
さといがいつ帰ってきてもいいように、アロマががんばらなきゃ!」
アロマちゃんのまっすぐな瞳を見て、私はアロマちゃんを応援したくなった。
「うん……、私、明日行くよ。アロマちゃん、ライブがんばってね!」
「ありがとー、タマ!」
アロマちゃんは、はじけるような笑顔で手をふった。