薄日が差す朝(b)


佑虎のすがたを見るやいなや、もこなは教室を飛び出していった。
誠はすぐにもこなのあとを追いかけながら、声をかけた。

「どうして彼のあとを、そんなにあわてて追いかけるんだ!?」
「……佑虎なのよ!」
「えっ?」

誠が聞き返すと、もこながふり返って大声で言った。

「佑虎が、越智さんを窓から落としたの!  でもわざとじゃあないわ、越智さんを助けようとして、手がすべっただけなの!」

そしてもこなはふたたび、前を向いた。

「きのう、佑虎は私になにか言おうとしていたわ。きっと、私が見ていたことを知っていたのよ……!  こんなことならきのう、ちゃんと話を聞いておくんだった……!」

佑虎は部室棟に向かっていたようだったが、誠たちが校庭に出るころには、すでにそのすがたは見えなくなっていた。
誠たちがいそいで部室棟へ入ると、階段で飛鳥に出会った。

「赤月君、なにごとだ? いま、佑虎が屋上へあがっていったようだったが」
「まずい。……もしかすると……」

飛鳥の言葉を聞いた誠は、すでに階段をのぼり始めていたもこなに声をかけた。

「鹿波さん、屋上だ!」

そしてばたばたと、ふたりとひとりは屋上へとのぼっていった。

誠たちが階段を駆けのぼっていくと、屋上へのとびらは開け放しにされていた。
佑虎はというと、その先の屋上の柵(さく)に足をかけて、いまにも飛びこえようとしているところだった。

それを見たもこなが悲鳴をあげた。

「佑虎!? なにをしているの!?」
「来るな……ッ!」

佑虎が細い声でさけんだ。佑虎の奥歯が、がちがちと音を立てている。

「僕がいけないんだ! 僕が……、飛鳥ちゃんを殺してしまった!」
「え?」

ひと足早く、佑虎のそばまで飛んでいった飛鳥は、おどろいてその動きを止めた。
佑虎に向かって、もこなが必死にさけんだ。

「ちがうわ、佑虎! あれは、あなたがわるいんじゃないわ。 運がわるかったの、あなたは越智さんを助けようとして、足をかばんにひっかけて転んだだけ!」
「そんなことで……! そんなことで殺してしまうなんて……!」

佑虎が両目を覆う。
そんなふたりの会話を聞いているうちに、飛鳥は思い出した。

あのとき、窓枠にのぼるのにかばんがじゃまで、すぐ近くの床に自分のかばんを置いたことを。

「……あのかばんに、佑虎は足をとられてしまったのか……!」

佑虎はぼろぼろと泣いていた。

「こんな苦しいきもち、もういやだ……! だから僕ももう、ここで終わりにする!  せめて飛鳥ちゃんと同じように、僕は死ぬんだ!」
「やめ……っ」

誠が駆け出すよりもはやく、佑虎はそのまま柵を越えて、空へととんだ。