帰りのホームルームが終わると、誠はすぐにとなりのB組の教室へと向かった。
そしてとびらのいちばん近くにいた女子生徒に、
「ちょっといいかな」
と声をかけた。
「鹿波さんに用事があるんだけれど、いまいる?」
声をかけられた女子生徒は、ううん、と首を横にふった。
「鹿波さんなら、今日は早退しちゃったよ」
「早退? どこか具合でも?」
「うーん」
女子生徒は首をかしげた。
「私にはよくわからないけれど、五限目にはもういなかったよ。
……下水流さんならなにか知ってるかも、鹿波さんと仲がいいから」
「じゃあ、その下水流さんを呼んできてくれるかな」
ほどなくその女子生徒は、詩良を誠の前まで連れてきた。
誠はにっこり笑って詩良にあいさつする。
「はじめまして、下水流さん」
詩良は誠の顔を見ておどろいた。
「……あの赤月君が、あたしなんかになんの用があるの?」
「えっと……」
誠は少しだけ考え、そのあとに顔をあげた。
「鹿波さんに、越智さんのことを聞きたかったんだけれど。鹿波さん、早退したらしいね。なにかあったの?」
「あー、なんだか昼休みに上から毛虫が落ちてきたんだってさ。
それがショックだったみたいで、そのまま帰っちゃったんだよ。それよりもなに? 越智の話って?」
「単刀直入に聞くけれど、……いじめてた? 彼女のこと」
詩良はいぶかしげに誠を見た。
「は? ちがうクラスの赤月君が、どうしてわざわざそんなことを聞いてくるわけ?
……っていうか、いじめじゃなくて、単にきらいだったからそれが表面に出ただけ」
意外な言葉に、誠が目を丸くした。
「……もしかして、きみも越智さんのことを?」
「だーかーらー、いじめじゃないってば。しかたないじゃん、相性が合わなかったんだから」
まるで自分のほうが被害者とでも言いたげな詩良に、誠の目がすうっと細くなった。
「……ふうん。とりあえずその話、もうすこしくわしく聞きたいんだけれど」
「えー……」
詩良は上を向いてなにかを考えていたが、やがていじわるそうな笑みを浮かべた。
「そうだなー。それじゃ、赤月君が放課後デートしてくれるならいいよ?」
その言葉に対して、誠はまったく表情を変えずに言った。
「現段階でわりと君たちを軽べつしているけれど、それでもいい?」
詩良は一瞬だけきょとんとして、それからおかしそうに声をあげて笑った。
「あははっ! 赤月君っておもしろいね!
うん、それでいいよ。 じゃあ、用意してくるからちょっと待ってて!」
詩良は鼻歌交じりに、自分のかばんを取りに教室のなかへともどっていった。