【だれかの部屋】

ここはぼくの部屋だよ。多少散らかってはいるけれど、屋敷のなかでは、ここがいちばん安全だと思う。
……その、いまは留守にしているんだけれど、 『コヒナタ』っていうやつがきみを見つけた場合、……嬉々としてきみを玩具にするだろうから。
なんていうか、彼は性悪なヤマネコのようなやつなんだ。
……名乗るのが遅れたね。ぼくの名前は『ますだ』
ぼくたちときみたちとでは、所属している世界がすこしちがうんだ。
基本的に、きみとぼくの世界が干渉し合うことはない。それでも、まれにきみみたいな『向こう側』の存在が、『こちら側』に迷いこんでくることがあったりもするのさ。


……玄関のとびらがひらく音が、かすかに聞こえた。


も、もう帰ってきた!?
ああ、あいつだよ……、『コヒナタ』だ! さっきの話だけれど、コヒナタにとってはそういう『向こう側』や『こちら側』の境界が意味を成していないんだ。
今日は『向こう側』に出かけていたから、もうすこし遅くなるかと思っていたんだけれど……
……と、とにかく、どこか隠れるところ……、そうだ!

【ますだの部屋のクローゼット】

……きみはここに隠れていて! ぼくがいいと言うまで出てきてはいけないよ、いいね?


クローゼットのなかに身を潜める