【ますだの部屋のクローゼット】

増田君、ただいま帰ったよ。
う、うん、おかえり、コヒナタ……、って、服についてるの、血……
そうなんだ、珍しいだろう?
……ところでまったく関係のない話なんだが、 『向こう側』のとある病院で最近、子どもが忽然(こつぜん)と姿を消す事件が起きていてね。その事件の解決にひとりの医者が名乗りを上げた。
しかし、残念ながら彼も後(のち)に、すがたを消してしまったらしい。うわさでは、神隠しの犯人は『性悪なヤマネコ』で、その医者もヤマネコに美味しく調理されてしまったとか。
……えっと。
……。
……、さっきの話、聞いちゃった?
ああ。
………………。


………『コヒナタ』の手によって、クローゼットのとびらがひらかれた。


……その人は、ぼくの客人なんだ。見逃してくれないかな。
見逃すことで、私にメリットは?
……見逃すことのデメリットも、ないだろ? ニンゲンなんていくらでも手に入るんだから。
そうやって目に入るものだけを助けようとする精神は、偽善だと思うがね。
いまさら善悪を説ける立場でもないだろ、おたがい。
……しかたがないな、増田君は。
増田君に免じて、いまは貴方を見逃してあげよう。……
……どうせ、貴方とはまた、会うことになるだろうからね。


……目のまえがかすんできた……