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「あんたが関わった事件って、いつも解決どころか限界までこじれるわよね……」

志摩子は電話を切って、頭を抱えた。

目も当てられない、大惨事だ。
あいつは本当に探偵に向いていないと思う。

いったい、どこをどうすればこんな結末になるのだろう。
あいつには人の負の部分を最大限に引き出す特殊な能力でもあるのだろうか?

さてどうしよう、と志摩子は考える。

死体の入れ替え。
身寄りのない宮下緋色を『生かす』方が、今後動きやすいということか。

(あーあ。さすがにあいつ関係のことで、桜子に頼るわけにもいかないし……)

しかしなりふりさえ構わなければ、深神の望みを叶えてやることは、難しくはなかった。
なぜならこんな事態のときにこそ彼が動きやすいように、いままで人脈と土台を固めてきたのだから。

「深神さん、なんて言っていました?」

お茶のおかわりを持ってきたハルカが、ひかえめに志摩子にたずねた。
志摩子は苦笑して答えた。

「夕食は四人ぶん作っておけ、ですって。おめでとう、たぶん家族が増えるわよ」
「……いったい、深神さんはなにをしでかしたんです……?」

深神のせいで、ハルカも苦労が絶えないだろう。
いまだって、まだこんなに小さいのに、まるで主婦みたいによく働いているし。

片うでがない彼にここまで家事を教えこんだのは、 万が一の場合にも、彼がひとりで生きていけるようにするための、深神の計らいだろう。
しかしながら上司の性格があんなでは、この先の彼の人生にも波乱が多いはずだ。

志摩子はハルカの質問に答える代わりに、感傷的な気分で事務所の窓の外に目を向けた。

「……はあ、ずいぶんときれいな夕陽色だこと」

窓の外の町を染めるのどかなオレンジ色を見て、志摩子は思わずつぶやいた。

「……『オレンジのラプソディ』って、結局なんだったのかしら」

『山葡萄のレクイエム』のモデルとなった、 オレンジというタイトルなのに全然オレンジ色じゃないサバトの絵。 ひねくれた「あの子」からの、なにかのメッセージだったのだろうか。

そこでハルカがおずおずと口を出した。

「すみません……、なんてことないんですよ」

ハルカはお盆を抱えたまま、どこか恥じ入るように言った。

「あの人……いや、『サバト』がデザートのために取っておいたオレンジを、オレの弟が盗み食いしたときに、 サバトがその仕返しで弟の苦手なネコの絵を描いたってだけなんです……」

……まあ、そんなことだろうとは思っていたけれど。