船が港についたあと、都子の客室から彼女の遺体が発見された。
都子はその胸元にナイフをつき刺し、自殺したようだった。
都子の客室からは本人が書いたと思われる遺書が残されており、今回の事件についても細かく記されていた。
こうして、船の上の事件の幕はおりたのだった。
船から降りると、深神とハルカは簡単な事情聴取を受けた。
そのあと、深神は警察に用事があると言ってその場を離れたので、ハルカはひとりで深神がもどるのを待つことになった。
いつの間にか、空はくもり空から晴天に変わっていた。
まぶしい夕日が、海と大きな船を照らしている。
乗客たちの事情聴取も、ほとんど終わったころ。
ぼんやりと海をながめていたハルカのところへ、赤月兄妹と青空がやってきた。
「今回は、たいへんなことに巻きこんでしまって、申しわけありませんでした」
誠が頭を下げた。
「また改めて、ごあいさつにうかがわせてください」
「いや、いいって、そんなにかしこまらなくても。そういうのは抜きにして、またみんなで気楽に会おうぜ。な?」
ハルカが笑うと、誠のとなりで、おずおずと青空が言った。
「あの……、ハルカさん。髪留め、ありがとうございました」
「ああ」
ハルカが笑い、青空の頭をぽんぽんと叩いた。
「青空も、元気でな」
その時、舞がくるりと向きを変えて、すたすたとすこし離れた場所まで歩いていった。
それから立ち止まってふり返ると、ハルカのことを手招きした。
そのようすを見て、誠が言った。
「……舞が、なにか言いたいことがあるようです。どうか行ってやってもらえませんか? ……僕たちは、ここで待っています」
ハルカが舞に近づくと、舞はちょうど内緒話をする時のように、手のひらを自分の口元に寄せた。
「なんだ、どうした、舞?」
ハルカは腰をかがめて舞の口元に耳を近づけた。
すると舞は、いままでとはまるで別人のような……とても子どもとは思えない、やさしく甘い声色でささやいた。
「ひとつだけ、聞いておきたいことがあるの。
黒野の悲鳴がデッキから聞こえたとき、舞とあなたたちは七階の客室の扉のまえではち合わせたわよね。
……あのとき、あなたたちが『自分の客室』からではなくて、『村崎幸治郎の客室』から出てきたのは、どうして?」
それを聞いて、ハルカの目が大きく見開かれた。