「お、おまえ、やめないか……」
うろたえる塩原に、礼美は言った。
「あなた、往生際(おうじょうぎわ)がわるいわよ? それに亡くなった村崎さんと佐藤さんのことをきちんと調べ直されたら、
遅かれ早かれ、いずれわかってしまうことだわ」
そして礼美は深神に向き直り、話し始めた。
「数年前、佐藤さんのシャムロック・パークが開園したばかりのころ……、当時は周辺地域の土地の開発に、様々な企業が熱をあげていました。有名どころの企業がこぞって開発にいそしむなか、赤月グループはどちらかというと、しずかに状況を見守っていました。
それは主人が赤月グループに、ほかの企業によって開発された土地をあとから買い上げればいい……、そう進言したからです。
そんななかでも飛びぬけて好条件の土地に、古くなった賃貸マンションが建っていた……」
「それが、あの七年前に火災がおこった、マンションなのね」
桜子がつぶやくように言って、礼美がうなずいた。
「マンションの所有者だった村崎さんは、主人と佐藤さんと共謀して、立ちのきがうまくいかなかったマンションを燃やしてしまった。
そしてこれは以前、週刊誌にも書かれたことですが……手に入った火災保険金を開発資金にあてた」
「……いいかげんなことを!」
塩原が、礼美の頬を強く平手打ちした。
その場に倒れた礼美を、都子が支えながら、言った。
「……そして全焼したマンションの跡地には、旅館『あやめ』が建設されました。そしてしばらくしてから、赤月グループに統合された……」
「仮にそうだとして。仮に、だぞ? そうだとしたら、今回の事件ではおれが犯人ではないということだよな。
おれは被害者になるかもしれない立場の人間なのだから」
「そうですね。あなたが犯人だったなら、まずはあなたの過去を知っているとなりの奥さんを、先に殺しておくべきだったでしょう」
「はっ……」
深神の話を鼻で笑ったのは、鈴音だった。
「回りくどいわ。今回の事件は、あの火事にうらみを持っている人物による復讐だったんでしょ。
……それなら、犯人はもう決まっているじゃないの」
鈴音はその指を、床から水平に持ち上げた。
指を向けられた先には、ハルカがいた。
「犯人はハルカ君じゃない」