「いったいなんだ? どうしておれはこんなところに呼ばれたんだ?」
塩原院長が、わけがわからない、という顔でバーのなかをきょろきょろと見渡した。
バーのなかには深神と、深神によって集められた、桜子、塩原夫妻、都子、鈴音、そしてハルカの七人がいた。
「さてみなさん、お集まりいただきありがとうございます」
深神がうやうやしく、頭を下げた。
「実はこの船の上で、みっつの事件がありました。昨日の夜に村崎氏が客室で殺され、佐藤氏は行方不明になった。
そして先ほど、赤月家の使用人、高松氏が海へと落とされました」
「……はっ?」
塩原が、口をあんぐりと開けたまま、固まった。
「なんだと? 村崎が死んで、啓祐が行方不明……?」
その横で、礼美も口元に手を当てて顔色を白くさせた。
まさか、村崎と佐藤も被害者になっていたとは思いもしていなかったのだろう。
「さて、みなさんに集まって頂いたのは……もちろん、このなかに一連の事件の犯人がいるからです」
ざわめきのなか、深神はくるりと一同に背を向けた。
「村崎氏はワインに毒を盛られて殺された。ワイングラスは、床に落ちて割れていたひとつだけだったが……簡単なことだ、
この船の上では証拠となるものはいくらでも海へと投げ捨てられる。
おそらく犯人は被害者に、いっしょにワインを飲もうと持ちかけた。そして隙を見て、村崎氏のワインに毒を入れたのでしょう。
そのあと、自分のグラスだけを海へと投げ捨てた……、それはつまり、犯人は村崎氏とある程度親しい人物だったということだ」
「そんなことでいちいち疑われていたら、たまったもんじゃないわよ」
鈴音が深神の言いぶんに噛みついたが、ハルカがそれを手で制した。
「まあ、最後まで聞いてあげてください」
それからハルカは、そのまま塩原のほうを向いた。
「……塩原院長。どうも顔色がわるいようですね」
そう言われて塩原の青かった顔が、次の瞬間にはまっ赤になった。
「当たりまえだ! たったいま、殺人犯といっしょの部屋にいるんだぞ!?
いつ殺されてもおかしくない……! こんな部屋にはいたくない!」
どなり散らす塩原の横で、礼美がぽつりとつぶやいた。
「あなた……、次は自分が殺されるとでも、思ったのかしら」
「なっ!? おまえ、なにを……っ!?」
塩原は信じられない、というような顔で自分の妻の顔を見た。
しかし礼美は気にせずに続けた。
「村崎さん、佐藤さんが殺されたのなら、次はあなたが殺されるのが筋ですものね」
「塩原夫人、それはどういうことですか?」
深神の問いに、礼美は冷たい視線で言った。
「夫はかつて、過ちを犯しました。……村崎さんと佐藤さん、そして夫の三人で」
「い、いったいなにを言い出すんだ、おまえは……っ!」
「あなた」
まっすぐに夫を見すえた礼美は、それはそれは美しくにっこりと笑った。
「もう、あなたのお守りは疲れました。
今日であなたと離縁します。……その置きみやげに、探偵さんにすべてをお話するわ」