「塩原夫人! だいじょうぶですか!?」
深神はすぐに礼美のもとに駆け寄った。
そして彼女の身体を抱き起こすと、ハルカに呼びかけた。
「ハルカ、海のほうはどうなっている?」
「波が荒くて、なにが……だれが落ちたのか、わかりません!」
ハルカがデッキから海を見下ろしながら、叫んだ。
深神のうでのなかで、礼美は小さなうめき声をあげたあと、細く目を開いた。
「いま……、海に落ちたのは、高松さんだったと思います……」
「塩原夫人にもそう見えましたか。……それならば、どうやらまちがいはなさそうですね」
それから深神は、そばにやってきたハルカに言った。
「塩原夫人を頼んだ。私は、赤月代表に会ってくる」
そして深神は、その場にとおりかかった人々から桜子の居場所を聞き出すと、いそいで彼女を探しに行った。
目撃情報のとおり、桜子は五階のラウンジにいた。
高いアーチ型の天井のしたで、乗客たちと話をしていた桜子に、深神は駆け寄った。
「高松氏が海へ落ちました」
駆け寄ってくるなりそう告げた深神に、桜子のまゆが一瞬だけぴくりと動いた。
「高松が?」
「四階より上から落ちてきた。レストスポットの方角です」
「……レストスポットの真上には、昼間は開けていないバーがあるわ」
「あやしいな」
「バーはこの階よ。行きましょう」
そしてふたりは言葉も少なく、バーへと向かったのだった。