いくつめの事件(h)


「高松さんを探すにしても、どこを探せばいいんでしょうね……」

ダイニングルームをあとにした深神とハルカは、船内をうろうろと歩いていた。

誠の言ったとおり、乗客たちはきのう起きた事件のことを、まったく耳にしていないようだ。
たびたび目にする、その談笑しているすがたに、きのうと変わったようすはない。

ハルカは彼らとすれちがいながら、うーん、とうなった。

「朝食にはもちろん来ていなかったし、自室にもいないとなると……具合でもわるくなって、外の空気を吸いに行ったとか?」
「四階のプロムナードデッキには、レストスポットがあったな。聞きこみもかねて、あの場所に行ってみるか」

深神が言った。
そしてふたりは、ふたたび船の四階にあるデッキを目指した。



「ここに深神さんとふたりで立ったのが、まだきのうのことなんて……、なんだか信じられないです」

デッキの上に立ったハルカがそう言いながら、海を見た。
朝に見たときと同様、くもり空に、荒れた海だった。

「おや、あそこにいるのは塩原夫人ではないか」

深神が声をあげた。レストスポットにいたのは、塩原の妻の、礼美だった。
礼美は物憂(ものう)げに、海のかなたをながめている。

「……なんだか、具合がわるそうですね」
「いや、たぶんあれが、ふだんどおりの彼女の表情なんだろう」

深神がそう言ったとき、礼美のちょうど目のまえに、なにかがばらばらと降ってきた。

「え?」

それは、紙きれだった。
まるで羽が舞い降りてくるかのように、次から次へと上から落ちてくる。

「なんだ……?」

次の瞬間、いままでの紙きれとは比べものにならないくらい、大きなものが落ちてきた。
ハルカがそれを見て、大声で叫んだ。

「……人だ!」

そうハルカが叫ぶのと、礼美がふらりとその場に倒れこむのは、ほぼ同時だった。