六階のダイニングルームには、すでに多くの人が集まっていた。
そんななか、ブッフェの料理を選んでいた誠が、深神とハルカに気がついた。
「深神さんにハルカさん、おはようございます」
そう行儀よくあいさつをした誠の皿の上には、心なしか甘味が多い。
誠はすこし小声になると、深神にささやいた。
「……きのう、舞から聞きました。なんだかたいへんなことが起きてしまったみたいで……、
ほとんどの乗客にはまだ事件のことを知らせていませんが、これでよかったのでしょうか?」
不安げな誠に、深神が答えた。
「へたに知らせてしまうと、さわぎが起こるかもしれない。
それに、もしも犯人がまだこの船の上にいるのなら、乗客を客室待機にしたほうが犯人にとっては動きやすい状況になってしまう。
……この策がベストとはいえないかもしれないが、無難な策だろう」
それから深神とハルカは、誠と同じテーブルについた。
テーブルにはすでに舞と青空が先についていて、食事をとっていた。
青空は、ハルカの顔を見ると、わずかに表情を明るくした。
「あ……、お、おはようございます、ハルカさん……、深神さん」
「おお、青空。おはよ」
ハルカも明るくあいさつを返す。
「あっ、お兄ちゃん、また甘いものばっかり!」
舞は誠の皿の上を見て、まゆをつり上げた。
「あんまり甘いものばかり食べていると、虫歯になっちゃうわよ」
「うーん、それはいやだなあ」
誠が苦笑した。
そんな誠に、深神がたずねた。
「誠君と舞お嬢さまは、赤月代表といっしょに食事をしないのか?」
誠はうなずくと、なんでもないような口調で言った。
「母と、僕たち兄妹では、赤月家としての役わりがちがいますから。
僕たちはまだ未熟なので、赤月グループの代表である母のとなりにはいられません」
「ま、誠って、いま何歳なんだ?」
ハルカがおそるおそるたずねると、誠が笑顔で言った。
「今年で十四歳になります」
「……オレより年下で、そんなにしっかりしているのかよ……、赤月家って、たいへんなんだな……」
「おもしろい部分もありますよ。たとえば今回のパーティでは、帝王学の一環として、
人のこころをもっとよく知るようにと、客室のコーディネートをまかされたんです」
「それでは、もしかして客室に置かれた花は、誠君の案か?」
深神が口をはさんだ。
そこで、ハルカはきのう、舞が花のことを気にしていたことを思い出した。
「ああ、そういえば舞が、佐藤さんの部屋だからキャンディタフトだとか、なんとか……って、あれ、結局どういう意味だったんだ?」
「赤月グループには色に関係する名前をもつものが多いので、今回は各個人に関連した色の花を飾れたらいいな、と思って提案したんです」
「……つまり佐藤だから、サトウ……砂糖で、『白』の『キャンディ』ってことか!」
「いまごろ気がついたのか、ハルカ」
深神に言われて、ハルカはかあ、と顔を赤らめた。
「うわっ、深神さん、そんな目で見ないでくださいよ。
オレは深神さんとちがって、四六時中甘いものについて考えているわけじゃないんですから……!」
それからわたわたとしながら、ハルカは誠にたずねた。
「で、でも、こんなに乗客がたくさんいるのに、ひとりで考えるのはたいへんだったんじゃないか?」
「お兄ちゃんはアイデアを出しただけで、客室に飾る花の種類をぜんぶ考えたわけじゃあないわ」
舞が言って、誠がうなずいた。
「今回のパーティでは、赤月グループの者が自分で使う客室の数を、本人たちに申請させています。
ですからその申請者によって花の種類を変えた、と僕は聞いています」
「ふむ、なるほどね」
深神はそれを聞いて、なにかを納得したようだった。