次の日の、朝七時ごろ。
ベッドの上で目を覚ましたハルカは、しばらく天井を見つめていた。
ゆっくりとベッドの上でからだを起こしてみると、ソファに腰をかけている深神が目に入った。
「……おはようございます、深神さん」
「おはよう、ハルカ。よく眠れたか」
深神は本に視線を落としたまま、言った。
深神の読んでいる本は、タイトルからしても今回の事件とは関係のないもののようだ。
テーブルの上にはすでに読み終えたのだろう、十冊前後の分厚い文庫が積み重ねられている。
彼がどうしてスーツケースをふたつも持ってきたのか、ハルカはようやくその理由がわかった。
……あのあと、疲れのせいもあってか、ハルカはすぐに眠ってしまった。
しかし深神は睡眠を取ったのだろうか、とハルカはぼんやりと考える。
ハルカが深神の事務所に世話になり始めてから、もう七年もの月日が経った。
しかし、彼が寝ているところを、ハルカはいままでに一度も見たことがなかったのだった。
ハルカは深神の背後、バルコニーにつながる大きな窓に目を向けた。
窓の向こうはくもり空だ。海は昨日の夜と同じように、まだ荒れている。
ハルカはベッドからおりると、手ばやく着替えた。
「深神さん、準備ができました」
「そうか。では、そろそろ朝食に行こうか」
「行きましょうか。朝食もブッフェらしいですよ、よかったですね」
「まるで私が食い意地を張っているような言いかただな」
深神は苦笑しながら、ハルカの背中を叩いた。