いくつめの事件(b)


深神たちは、都子に案内されて七階のフロアへと移動した。
廊下を歩いてしばらくしてから、都子は『七五三』と書かれた部屋の前で立ち止まった。

「ここです……」

都子が言い終わらないうちに、深神はノックもなしにドアノブに手をかけた。

かちゃり。

鍵はかかっておらず、とびらは簡単に開いた。

「……佐藤さん?」

深神が部屋のなかに向かって、声をかけた。

部屋の間取りは深神たちの部屋と同じで、明かりは点いたままだった。
バルコニーに続く窓は開け放してあって、カーテンが風に吹かれてはたはたと揺れている。

「……ここから人が落ちたらたしかに、ちょうどさっきの位置から見えるわね……」

鈴音がバルコニーから身を乗り出しながら、言った。

深神たちは部屋中を探したが、佐藤のすがたは見当たらない。
そのとき、舞はぐいぐい、とハルカの右そでを引っ張った。

「ねえ、ハルカお兄ちゃん。……あのお花の名前、なんていうの?」
「え、花?」

言われて見てみると、ハルカたちの部屋と同じように、キャビネットの上には花が飾られていた。
花の色は白色で、小さな花が集まってまるく見える。

「あれは……、『キャンディタフト』かな。昔、図鑑で見たことがあるんだけれど、うまそうな名前だったから記憶に残ってる」
「ふうん。……だから、佐藤の部屋にはあの花にしたんだ」

舞が小さな声でつぶやいた。

「え?」

その意味がわからず、ハルカが聞き返したが、舞の話題はすぐに変わった。

「ねえねえ、佐藤はたしか、村崎と仲がよかったはずだわ。彼ならなにか、知っているかも」

舞の言葉を受けて、都子が言った。

「村崎の客室も、この階です。呼んでまいりましょうか?」
「……いや、こちらからうかがおう」

そうして結局、村崎の部屋にもここにいる全員で行くことになった。



村崎の客室は七一五号室だった。
つまり、七一六号室の深神たちとは、部屋がとなり同士ということになる。

都子は村崎の客室の扉を二度、ノックした。

「支配人、いらっしゃいますか?」

そしてもう二、三度ノックをする。しかし、しばらく待ってみても反応はなかった。
都子は申しわけなさそうに、ふり返った。

「まだどこかに出かけているのかもしれません」

それを聞いて、深神はまたなにも言わずに、ドアノブに手を伸ばした。

「深神さん! ……勝手に開けたら、まずいですって」

ハルカが制止したが、深神は遠慮なくドアノブを下げた。
すると佐藤の部屋と同じようにかちゃりと軽い音がして、扉は簡単に開いたのだった。