青空の泊まる客室は十階で、舞と同室だった。
ハルカたちは船に乗ってすぐに、一度七階の自室に荷物を置きにいっている。
しかし十階と七階だと、雰囲気がだいぶちがっていた。
七階ももちろん、上品な雰囲気をただよわせていたが、十階はどちらかというと、豪華だった。
それもそのはず、この船の客室は、階が上がるごとにランクも上がっていく。
そして十階は客室のなかでもいちばん階が高い。
扉と扉のあいだがだいぶ離れていることから考えても、客室自体も七階のものとは比べ物にならないくらい、広いのだろう。
「ハルカさん、ここまで送ってくれて、どうもありがとう」
部屋のまえで、青空がぺこりとおじぎをした。
「こういう場所ってはじめてだったからすごく緊張していたけれど、ハルカさんのおかげで気持ちが楽になりました」
「うん、オレも」
ハルカは笑った。
「今日はいっしょに話せてよかったよ。舞たちにもよろしくな。……それじゃあ、またあした」
「はいっ……、またあした」
青空と別れたハルカは、自分の客室がある七階へともどってきた。
十階と比べるとシンプルな廊下ではあったが、ハルカにとってはこちらの階のほうが、ほっと落ち着くことができた。
ハルカがそっと客室のとびらを開けると、深神は奥の部屋のソファでくつろいでいた。
「……深神さん」
ハルカが数歩進んで、立ち止まった。
名前を呼ばれた深神は、ゆっくりと顔をあげた。
「ハルカ、どうした? いまごろ船酔いか?」
「……いえ、だいじょうぶです。窓、開けてもいいですか?」
「ああ、構わない」
ハルカが窓をそっと開けると、室内にすずしい風が入ってきた。
客室の部屋は、ふつうのホテルと同じような作りになっていて、広々としている。
深神が座っていたのは、テーブルをはさんで向かい合わせに置かれた、ふたりがけのソファのひとつだった。
部屋の奥にはバルコニーに続く窓があって、かべぎわにはそなえつけのキャビネット。
そしてキャビネットの上には花びんがネジで固定されていて、むらさき色の花が飾られていた。
「……そういえば、深神さん。あの犯行予告の送り主について、わかったことは?」
「いいや、いまだになにもないな。いまのところ、特に『事件』のようなものも起こっていないようだし」
しかしそのとき、
「……きゃああああっ!!」
その悲鳴は、とつぜん聞こえた。
深神とハルカが同時に目を合わせて、そのあとバルコニーのほうに目をやった。
「……起こりましたね、事件」
「ああ。……ハルカ、窓を閉めたらすぐに、われわれの仕事をしに行こう」