「あら、ハルカ君」
都子と佐藤もハルカたちに気がつき、こちらに近づいてきた。
「きみ、さっきのピアノ、すごかったね」
佐藤がそう言って笑った。
「僕はあのとき、深神先生といっしょに食事をしていたんだけれど、深神先生もすっかり聞き入っていたよ」
「え……、深神さんが、ですか?」
ハルカはおどろいて言った。
「深神さん、音楽に興味なんてないと思っていたのに。事務所で音楽を聞いているところなんて見たことがないし……」
「そうなのかい? 僕が見た感じでは逆に、こわいくらいにピアノの音に興味津々(しんしん)のようだったけれど……、
もしかすると、ピアノを弾く友だちでもいるのかもしれないね」
佐藤が言った。
都子はというと、青空に視線を合わせてかがんだ。
「あなたは、誠君と舞お嬢さまのお友だちの、青空ちゃんだったわよね。ハルカ君とお友だちになったのね?」
「あ、は、はい……」
青空がまた、顔を赤くしてハルカのうしろにかくれてしまった。
そんな青空を見て、佐藤が都子に言った。
「都子、僕たちはここにいないほうがいいんじゃないかい?」
「あら、ふたりのデートのじゃまをしちゃったかしら」
そして佐藤と都子のふたりは笑い合った。
ふたりのほうが、まるでデート中の恋人同士みたいだった。
「あーらあ、こんなところに集まって、なんの話をしているのお?」
そんな彼らの真ん中からとつぜん顔を出したのは、鈴音だった。
鈴音は佐藤と都子の肩を抱くと、うふふふふ、と笑った。
「やーねえ、ふたりとも、見せつけちゃってえ……」
「もう……、鈴音ちゃんったら、酔っているのね」
都子が困った顔で、鈴音の頬に自分の手をそっと当てた。
「冷たくてきもちいいー」と、都子は鈴音の手に頬ずりをした。
「丹波さん、ピアノを弾き終わったあとにしこたま飲まされていたからなあ」
佐藤は苦笑しながら、上着のポケットから時計を取り出した。
そして、時間を確認しながら言った。
「さて、それじゃあそろそろ、僕は部屋にもどるかな。ハルカ君たちは、どうする?」
「あ、オレたちももう、部屋にもどります。……都子さんと鈴音さんは?」
「私たちは、鈴音ちゃんの酔いがさめるまで、もうすこしここにいるわ。……鈴音ちゃん。とりあえずベンチに座りましょう?」
「はぁーい」
都子が鈴音に肩を貸すと、鈴音はぐったりと都子に寄りかかった。
「都子、身体を冷やさないようにね」
佐藤が都子に声をかけ、都子は佐藤をふり返ると、笑顔で手をふった。