プロムナードデッキとは、散歩ができるデッキのことだ。
四葉の四階にあるデッキはこのプロムナードデッキで、船をぐるりと一周することができた。
ハルカと青空がデッキに出たころには日はすっかり落ちて、外は暗くなっていた。
さすがにこの時間は、乗客たちも船内にいるようで、デッキにはあまり人がいなかった。
服をはためかせる夜風はひんやりと冷たくて、心地がいい。
波の音は聞こえるが、それ以外は静かだった。
「昼間も深神さんとここに来たんだけれど、夜は夜で、気持ちがいいな」
「そ……、そうですね」
青空はひかえめにうなずいた。
それからちらりとハルカの横顔をうかがうと、たずねた。
「あの、さっき食事をしているとき、深神さんから聞きました。
深神さんは探偵さんで……、ハルカさんは深神さんの助手さんをしているんですよね」
「ああ……っ、もう、あの人はしようがない人だな……」
ハルカはそう言うと、額に左手を当てた。
「自分が探偵だってこと、あまり人には言わないように、って言ったのに。
……青空、わるかったな。こんな場所に探偵なんかがいたら、不安になるだろ」
「い、いいえ。私はそれよりも……気になったことがあって」
青空は、ハルカの顔を見た。
「……ハルカさんは、私たちとそんなに年齢がちがわないのに、どうして助手さんをしているの?」
「まさか、そんなことを聞かれるなんて思わなかったよ」
ハルカは笑った。
「……オレ、ちょっと事情があって、昔、家から追い出されたんだ。
その時にオレのことを引き取ってくれたのが深神さんでさ。……助手になろうと思ったきっかけは、知りたいことがあったから。
でもいまは純粋に、深神さんの助けになれたら、と思って助手をしているよ」
「きっかけになった、知りたいことって……?」
ハルカは海の、とおくのほうを見た。
「七年前の、マンション火災の犯人さ」
青空はハルカの横顔を見た。
そしてなにか言いかけて、迷ったあとに、口を開いた。
「……マンションの跡地に建てられた旅館『あやめ』は、赤月グループの傘下、ですよね。
……今回、深神さんとハルカさんがこの船に乗ったのって、もしかしてあのマンション火災となにか関係があるの?」
ハルカは海から目を離して、青空を見た。
自然とふたりで見つめ合うようになってしまい、青空はあわてて顔をそむけようとした。
しかしハルカが青空の頬を、片手でおさえた。
「なあ、青空って、どうして目元をかくしているんだ?」
「えっ……」
ハルカは自分の前髪を止めていた青色のヘアピンを外した。
そして、そのピンで青空の前髪を留めてみせた。
とつぜんのできごとに固まっている青空の顔を、ハルカはまじまじと見つめた。
「ほら、ぜったい顔を出したほうがかわいいって」
それからハルカは、にっこりと笑って言った。
「青空。話を聞いてくれて、ありがとな」
青空はまっ赤になって、うつむいた。
「そ、その、こちらこそ……ありがとう……」
そのとき、ハルカは青空ごしに、都子と佐藤のすがたを見つけた。