奇妙な探偵と助手 -- 03


鈴音はしばらく黙ったあと、長い息をいた。

「たいしたものね。……あたしの名前は、『丹波たんば鈴音すずね』。お察しのとおり、ピアニストよ」
「あ……私は黒野都子みやこです。旅館『あやめ』の支配人補佐をしています」

都子がぺこりと頭を下げ、鈴音はいぶかしげに深神にたずねた。

「……ところで、どうして探偵がこんなところにいるの?」

鈴音の問いに、深神が答える。

「実はつい先日、わが事務所に犯行予告が届きまして」
「ちょ、ちょっと深神さん……っ!」

深神がその先を言おうとするのを、ハルカがあわてて止めた。

「い、いいんですか? ……犯行予告のこと、そんなに大っぴらにしてしまって」
「ほんとうに事件が起こるなら、このことはどのみち、いずれ知ることになる事実だ」

深神はそう言うと、胸元からなにかを取り出した。

それはまっしろな、ぶ厚い紙でできたカードだった。
カードの上には、古めかしい書体の文字が印刷されている。

『船の上で事件が起こる。港にもどるまでに犯人を探されたし』……

カードに書かれているのは、その一文だけだった。
カードを覗き込んだ鈴音は、首をかしげた。

「この……犯人って、いったいなんの犯人なの?」
「さあ、そこまではわかりません」
「ちょ、ちょっとお……なんだかこわくなってきちゃったじゃない」

鈴音が顔をしかめた。
そのとなりで、都子が不安そうに深神にたずねた。

「あの……このこと、赤月代表は知っているんですか?」
「ええ、知っているわ」

とつぜん、深神とハルカの背後で女性の声が聞こえた。

そこに立っていたのは、まっかなドレスを着てまっかなヒールを履いた、30代前半の女性だった。
肩より少し長い髪を持つ、つややかな美人だ。

女性はほほ笑むと、ハルカに向かって名乗った。

「こんにちは、深神先生。そしてあなたが助手のハルカ君ね?  私は今回のパーティの主催者でもある、赤月グループの代表、赤月桜子さくらこよ。 先日、こちらの深神先生から犯行予告のお話をうかがったわ」

そう言った桜子に、鈴音がたずねた。

「も、もちろん、犯行予告のことは警察にも通報したんですよね……?」

すると桜子は、深神の手からす、とカードを抜き取ると、そのカードを口元にあてて、ほほ笑んだ。

「まさか。こんなにおもしろいことが起こりそうなのに、パーティが取りやめになんてなったら、もったいないじゃない?」