7月5日(土) 13時03分 -- 04


扉を引き、そっと中へ入る。
玄関を入ってすぐ左側にはキッチンがあり、コンロには見慣れた赤いやかんが置いてある。

コンロの火はついていないが、ほのかにコーヒーのにおいがする。

……だれか、いる。

物音を立てないように、そっとキッチンの前を通り抜ける。
そして奥の部屋に続く扉を開くと、

「……西森少年か」

そこには、堂々と僕の部屋でくつろいでいる深神さんがいた。

……彼がここにいることを予想していなかったわけではない。
それでも、心臓はばくばくと早鐘を打つ。

深神さんは事務所のソファに座るのと同じようにして、長い足を組んで僕のベッドの上に座っていた。

優雅にコーヒーカップを手にしている。
もちろんそのコーヒーカップは僕のものだ。

深神さんと目が合い、僕は情けなくもあっさりと怖気づいた。
一歩も動くことができない。

「私がもどるまで事務所を離れないように、……と言伝ことづてを頼んだはずだったが?」
「……ハルカから聞きました。ただ僕は、僕の部屋に帰ってきただけです」

部屋の中に、深神さんがいるという威圧感。

僕はドアの前に立ったまま、拳を握った。
僕がこの場の空気に対してできる抵抗は、そのくらいしかなかった。

「どうして深神さんがここにいるんですか。緋色を探しているんじゃなかったんですか?」
「探しているぞ。いまは少し休憩しているだけだ」
「僕の部屋で休憩する必要はないでしょう?」

深神さんは笑った。しかし、目は笑っていない。

「西森少年。今日はやけに私に突っかかるな。なにかあったか?」
「あったもなにも!」

反射的に声を荒げた。しかしすぐに押し殺す。

「……みずきのこと、どうしてうそをついたんですか」
「ついていないぞ」
「ハルカが調べてくれましたよ」

深神さんは鼻からちいさく息を吐はいて、そのあと僕を睨んだ。

「まいったな」

口ではそう言いながら、深神さんは僕から目を離さない。
僕はそんな彼から、目をそらせない。

深神さんは僕を睨んだまま、ゆっくりと立ち上がった。

そして着ていたスーツの内側、左胸に右手を滑り込ませた。
僕がなにかを言う前に引き抜かれた彼の手には、鈍く光る小型の銃器。

「なっ……!?」
「動くな!」

後退しようとする僕に対し、深神さんは素早くこちらにその銃器を向けた。
銃口がこちらを向いたその瞬間、僕は後頭部に強烈な痛みを感じたのだった。