7月7日(月) 8時25分(a)


両目をうっすらと開けた瞬間に、いまは夜なのだろう、と僕は思った。
それは部屋のなかが、朝にしてはうす暗かったせいだった。

枕もとの携帯電話を手探りで開いて、時刻を確認してみる。

七月七日、月曜日。時刻は八時二十五分だった。

「……なんだ、朝だったのか。どうしてアラームが鳴らなかったんだろ」

月曜の大学の講義は、九時から始まる。
それに合わせて、いつもは八時にアラームをセットしているはずなのに、今日は鳴った様子がない。

「……あれ? そういえば、きのう、どうやってこの部屋に帰ってきたんだっけ?」

僕は考えこんだ。
ハルカとコンサートに行って、深神さんと緋色に会って……、その辺りから、記憶があいまいだった。
思い出そうとすればするほど、記憶にもやがかかっていく。

僕はなんとなく人の声が聞きたくなって、テレビのリモコンに手をのばした。
リモコンの電源ボタンを親指で押すととつぜん、


"ザ———…"


という音が部屋にひびき渡った。

テレビ画面には、砂嵐が映し出されている。
僕はあわててチャンネルを順々に切り替えていった。しかし、砂嵐が映し出される以外の変化は見られない。

「……アンテナの調子でも悪いのか?」

気がかりだが、気持ちをきりかえる。もたもたしていると、学校に遅刻してしまう。
僕はテレビの電源を消して、いそいで身じたくをした。



僕はこのマンションの四階で、ひとり暮らしをしている。
虹ノ橋大学が近いというのもあって、この六階建てのマンションの住人は、ほとんどが学生だった。

すべてのしたくを終えて部屋から出た僕は、渡り廊下から見える空の色におどろいた。
まるで嵐がくるまえのように、どんよりとした暗い天気だったからだ。

僕は階段を使って、一階へとおりた。
一階のエントランスにある管理人室には、いつも仏頂面で住人たちを送り出している年配の男管理人がいる。
しかし今日はめずらしく、そのすがたが見当たらない。

いぶかしげに思いながらも、エントランスを後にしてマンションの外へと一歩、足を踏み出す。
僕はそこではじめて、この世界に対して違和感を覚え、眉をひそめた。

(この静けさはなんだ……?)

駅まえの大通りからはすこし離れているにしても、今朝は人が少な過ぎる。
いや、少な過ぎるというよりは、ひとりの人間も視界に確認することができない。

思わずごしごしと目をこする。しかし、情景は変わらないままだ。
僕はなにかに急かされるかのように、走って大学へと向かった。