ココアの味 -- 03


目が覚めると、私はひんやりとした床の上に転がっていた。

「う……頭痛い……」

立ち上がろうとして、手足が動かないことに気がつく。
どうやら、縄のようなもので縛られているみたいだった。

「あ、あれ? 私、どうして……」

たしか私は、影平さんの車の助手席に乗っていたはずだ。
それでココアを飲んで、それからなんだか眠くなって……

「……あれ、目が覚めるのが早いね。たまちゃん、少ししか飲み物に口をつけていなかったからなあ」

そんな冷たい声が響いた。
私があわてて視線を向けると、そこには私を見下ろしている影平さんが立っていた。

「か、影平さん……? どうしてこんなことを?」
「さといちゃんをおびき出すためのおとりだよ」

携帯電話に耳を当てながら、影平さんが言った。

「……あいかわらず、さといちゃんの電話は電源が切られたままだ。
きみの声を聞かせたら、すぐに飛んでくると思ったんだけれど」

……ここはどこだろう。
首を回して、辺りを確認してみる。

床はコンクリートだ。天井は異様に高い。
声の響きかたからして、広さも相当だ。
おおきなコンテナがいくつも見えることから考えても、どこかの倉庫の中のようだ。

「うその手紙を書いたのは、影平さんだったんですね。……もしかして、大峠社長や、アロマちゃんのことも……?」
「隠したってしょうがないから、認めるよ。……そのとおり、どれも俺が犯人だ」

影平さんが口の端をゆがめて笑った。

影平さんが、大峠社長を殺したんだ。
……そう考えると、とたんにこの状況がおそろしくなった。

私は勇気を振り絞って、たずねた。

「……どうして大峠社長を殺したんですか?」
「さといちゃんには、ある『ひみつ』があるんだ。世間にばれたら、二度と芸能界にはもどれないようなひみつがね。
大峠社長は、あろうことかそのひみつを暴露しようと考えた。だから俺はさといちゃんのためを思って、大峠社長を殺したんだ。……それなのにッ!」

影平さんは、ダンッ! と床を踏み鳴らした。

「俺が犯人だと知ったさといちゃんが、それでもなお、そのひみつを公開すると言いだしたんだ!
だから、脅したんだよ。もしひみつを公開するなら、俺は殺人事件の犯人がさといちゃんだと証言するってね」

深神先生の言っていたとおりだった。
だからさとちゃんは、影平さんが犯人だという証拠が見つかるまで、どこかに隠れていたんだ!

影平さんが親指の爪を噛みながら言った。

「今後、さといちゃんがふらりと公衆の前に現れて、あのひみつをばらしたりしたらたまらないんだよ。
だからきみを人質にして、そんな過ちが起こらないように約束させようってわけさ」
「人を殺してまでも守らなくちゃいけないひみつって……いったいなんですか?」
「そこまで言ったらひみつじゃあなくなるでしょ? たまちゃん、もっと頭を使おうよ」

影平さんがあきれたように、深いため息をつく。

私は深神先生に渡されていた携帯電話の存在を思い出した。
電話は、スカートのポケットの中に入っているはずだ。

なんとか隙を見て、電話をかけられないだろうか。
私が身をよじっていると、影平さんが私の様子に気がついたようだった。

「……もしかして、これを探してる?」

影平さんはそう言って、スーツのポケットから携帯電話を取り出した。
それは間違いなく、深神先生から渡されていたあの携帯電話だった。