へんな探偵 -- 03


扉が開いたとたん、香ばしいコーヒーのにおいが漂ってきた。

「……探偵事務所に、なにか用かね?」

へんな人は、わずかにとまどったように私にたずねた。
私はあわててお辞儀をした。

「わ、私、九石珠っていいます! 『さざらし』ってなんだかアザラシみたいなので、『たま』で大丈夫です!」

言い慣れた自己紹介をしたら、事務所の奥のほうで、ガタガタン、という派手な物音が聞こえた。
その音を聞いたへんな人は、なにかをごまかすかのように咳払せきばらいをした。

「ああ、この事務所には住み込みの助手たちが何人かいるものでね。とりあえず立ち話もなんだし、中で話そうか。
……自己紹介が遅れてしまったが、私がこの探偵事務所の所長で、探偵の深神みかみだ」

へんな人……深神先生はそう言って私を室内に招き入れると、扉に鍵をかけて、さっとカーテンを元にもどした。
室内は広めのワンフロアで、左手に置かれたテーブルには、食べかけの朝食が並べられていた。

テーブルの上の皿やカップの数を見る限り、どうやら食事は4人ぶんだ。
奥には間仕切りがあって、どうやらその先の部屋に助手さんたちがいるらしかった。

「……すみません、朝食の途中におじゃましちゃったんですね」
「気にしなくていい。申し訳ないが、見たとおり向こうは片づいていないので、ここで話を聞かせてくれ」

そう言って、深神先生は私を椅子に座らせて、深神先生も向かい合うように座った。

「はい。あの……いまニュースになっている、夢追さといちゃんの事件ってご存知ですか?」

深神先生はゆっくり瞬くと、うなずいた。

「ああ、もちろんだとも。どこを見ても、あの事件はトップニュースだ」
「さとちゃんは、私の友だちなんです。それで、あの事件の犯人がさとちゃんだって、どうしても思えなくって……」

私はぎゅっと、膝の上で握り拳を作った。

「あの事件の真犯人を見つけてほしいんです! さとちゃんが安心して帰ってこられるように……!」
「わかった、引き受けよう」

気が抜けるほどあっさりと言われ、私ははじめ、冗談かと思った。
目をぱちくりさせながら、私はたずねた。

「え? ……どういうことですか? あの、そんなに簡単に引き受けてくださっていいんですか?」
「ああ」

それから深神先生は足を組み直した。

「実はあの事件については、そもそもきみとは別件で調査することになっていたのだ。
依頼料のことも気にしなくていい。
ただ、夢追さとい君の友人が捜査に協力してくれるなら、私としては、だいぶ動きやすくなる」

それから深神先生は、

「もちろん、きみ……『たまちゃん』に危険が及ばない、安全な範囲でな」

と、なぜか少しおおきな声で言った。
私は背すじをぴんと伸ばして、深神先生をまっすぐ見た。

「私にできることがあれば、なんでも協力します! どうかよろしくお願いします」
「いい返事だ。きみ、携帯電話は持っているか?」
「いえ……」

深神先生は立ち上がり、部屋にあったチェストの引き出しを開けた。
そして、そこから少し古い型の携帯電話を取り出した。

「事務所の予備の携帯電話だ。なにかあったら、連絡してくれ。新しい電話番号は勝手に追加してくれてかまわない」

深神先生はそう言いながら、スーツの内側から名刺を取り出した。

「ひとまず、今日はきちんと学校に行きなさい。放課後、またこの事務所に来るように」