「……っくしゅん!」
学校からすこしだけ離れたところにある喫茶店で、誠はくしゃみをした。
向かい側に座っていた詩良は、オレンジジュースを飲みながらたずねた。
「赤月君、かぜ?」
「……いや、ちがうと思うんだけれど……」
詩良は「ふうん」、と言うと、店の内装をじろじろと観察した。
「こういうオシャレなお店って、あんまり来たことないなー。ふだんはほとんど、ファストフード店だし」
「そっちのほうがよかった?」
「ううん、赤月君はそういうイメージじゃないしねー。こういう雰囲気のほうが合ってる」
それから詩良は、誠を見た。
「それで、越智の話だったよね」
「うん。越智さんに対してどういうことをしていたのか、具体的に教えてほしい」
「えー……、なんか取り調べみたいでやだな。だって言ったら、完璧にあたしらがわるものじゃん」
「じゃあ、帰る」
そう言って立ち上がる誠を、詩良があわてて引き止めた。
「ちょっと待って、こんなところに置いていかないでよ! わかった、言うから! ……でも、あんまり言いふらさないでよ?」
「わかった」
誠がふたたび椅子に座り、詩良がほっと息をはいた。
「そうだなー、……まあでも、どうせ赤月君が聞きたいのはあの話だよね。
……最後のあれ、越智が死んだ日。越智の体操服をもこなが木の枝に引っかけてさ。
そしたら越智、死んじゃったじゃん? それからもこなのきげんがわるいのなんの」
「それって。……つまり、越智さんはその体操服を取るために窓枠にのぼって、落ちたってこと?」
「まー、ふつうに考えればそうだろうねー」
詩良がもう一度、ジュースをストローですすった。
そんな詩良に、誠がたずねた。
「……じゃあ、鹿波さんがかたくなに自殺を認めない理由は、単純に事実じゃあないと知っているから、ということ?」
「それもそうだし、ま、罪悪感もあるのかもね。……もこなは、越智が死んだところを見たって言っていたし」
「それ、ほんとう?」
誠が机に身を乗り出した。
「じゃあ、越智さんが『ひとりで』窓から落ちたところを、見たんだ?」
「……んー、どうだろ。もこな、なんかそのときのこと、くわしく言いたがらないから」
それから詩良は、オレンジジュースを机の上に置くと、ぽつりと言った。
「でも、もこなのこと、責めないでやってほしいんだ。あの日はたまたま、もこなが手を出しただけで、
それまではずっと、越智にちょっかい出してたのはあたしだから。無視したり、物かくしたり。
みんなはあたしのことはこわがって、もこながいじめの主犯みたいに、うわさしているみたいだけれど」
「……どうしていじめたりしたの?」
「そりゃあ、いまならあたしにもわかるよ、あんなことしたって、なんの意味もなかった、って。
でも、越智が死ぬまではあたし、ぜんぜんなにも考えてなかったから」
それから詩良はわずかにうつむいて、言った。
「ただ、……もこなが狩谷のことを、好きなんだ。その狩谷が好きなのがあの越智だって知ってから、無性(むしょう)に腹が立っちゃってさ」