フィリーネの葬儀がすべて終わると、郵便屋はアルノとロミィのことをルイスにあずけた。
そして、、郵便屋、ベルナデット、フミ、そして神さまは、そろって森にやってきていた。
『……こんなときだから言うけれどさ』
神さまが、ぼそりと言った。
木漏れ日はやさしく、神さまのうえにふり注いでいる。
『こんな世界なんて、俺にとっては悪夢だと、ずっと思っていた。俺は願いを叶えることでしか人とは関われないってのに、関わった人間はみんな不幸になるんだからさ』
そして神さまは、とのことを見た。
『でも、キミたちはちがった。キミたちがこの世界に来たことは悪夢だったはずなのに、キミたちはずっと、楽しそうにしていた。だからそんなキミたちを見ていて、俺もうれしかった。……キミたちやベルナデットの記憶をうばったのは、もとの世界を思い出して、さびしい思いをしないように。そしてずっと記憶をもどせなかったのは、もとの世界に帰ってほしくなかったから』
それを聞いて、ベルナデットが笑った。
「そんなことだろうと思ったよ。
もちろん、私は記憶がもどって後悔はないが、期待していたような記憶ではなかったからな。……きっと長いあいだ、私は記憶を失うことで守られていたんだろう、……とは考えていた」
「神さま。……あなたにずっと、言いたいことがあったんです」
郵便屋が口を開いた。
「僕も、あなたに願いを叶えてもらったことを後悔はしていません。でも、ずっとあなたには、申しわけなかったと思っていました」
そして神さまの両肩に手を置くと、神さまの目線に合わせてほほえんだ。
「あのとき頼ってしまって、ごめんなさい。そしてこれからは、あなたの永遠に、ぼくたちがつき合います」
『……は?』
神さまが、ぽかんとして郵便屋を見た。
郵便屋とベルナデットは、顔を見合わせて笑った。
「僕とベルナデットは悪夢を見続けているかぎり、死ぬことはありません。そしてここにいるフミも、ぼくたちと同じような存在だと聞きました。これから、いやというほどにぎやかになりますよ。あなたをもう、二度とひとりにはさせません」
『んなっ、……』
「……よかったね、神さま」
動揺している神さまのすがたを見て、が笑った。
そして、も笑って、言った。
「もうだいじょうぶだね。……わたしたちが、もとの世界に帰っても」
ざああ、と森のなかに風が吹き抜けた。
足もとの落ち葉が、かさかさ音を立てながらと転がっていく。
『……やっぱり、それを願うか』
「うん。どんなにこの世界が居心地がよくても、ぼくたちがいるべき場所は、ここではないから」
「……、」
フミがふたりに近づいて、言った。
「あなたたちのおかげで、多くのことを学ぶことができました。
私はもっとこの星について、調べてみようと思います。もとの世界に帰っても、どうぞお元気で」
ベルナデットは苦笑する。
「短いあいだだったな。それなのに、おまえたちとはもうずいぶんと、長くいっしょにいたような気がする」
「そうですね。とと出会ってから、ぼくたちの日常は、すっかり変わりました」
郵便屋はそう言うと、カバンからなにかをとり出した。
「……。これはアルノからあずかってきたものですが、フィリーネさんの遺品だそうです。
自分が持っているより、あなたが持っていたほうがいいから、と」
そう言って、小さな麻ぶくろを手渡した。
「そして、。これは手紙です。もとの世界に帰ったときに、読んでください」
「え……」
が受け取ったのは、一通の真新しい封筒だった。
「……これ、だれからですか?」
「さあ、だれからでしょう」
郵便屋が笑った。
「でも、想いがつまっています。どうか、もとの世界に帰っても、僕たちはいつだってあなたたちのことを想っていることを、忘れないでください」
「……わかりました」
そしては、みんなの顔を見わたした。
「……みんなのことは忘れない。いままでほんとうにありがとう。
アルノやロミィ、ルイスさんにも、そう伝えてください。……それと、神さま」
は神さまにほほえみかけた。
「この世界にぼくたちが来たことが、ぼくたちにとっての『悪夢』だって言ってたけれど」
「わたしたちにとってはやっぱり、ぜんぜん『悪夢』じゃなかったよ」
も同じように、笑って言った。
「……それじゃあ、神さまのめんぼくが、丸つぶれだよ」
神さまも苦笑して、
そして双方、さよならは言わなかった。