街なかの裏路地まで神さまを追いつめたところで、神さまがくるりとふり返った。
「ぜぇ……っ、な、なんで追いかけて来るんだよ……っ」
あい変わらず、街では体力のない神さまだった。
はげしく息切れをしている神さまに、が言った。
「……神さま、ぼくが出した答えを聞いてくれ」
神さまは、一瞬きょとんとした。
それからすぐに、すう、と目を細めた。
「……ふうん。じゃあ、話してごらんよ」
神さまはいまだ、ただの少年のすがただ。
そのはずなのに、神さまにまっすぐ見られると、まわりの空気がふるえる気がする。
は言った。
「……願いを叶えてもらった人間はいま、代償として『悪夢』を見せられている状態だ。
……郵便屋さんの悪夢は、『負の感情を失うこと』。
ベルナデットの悪夢は、『人の記憶にとどまることができないこと』。
一方、ぼくとの場合は、願いはあとで、代償が先だと神さまは言った。代償が先だということはすでに悪夢は見ているはずなのに、感情はあるし、人から忘れられるようなこともない。いまのところ、特に不便に感じていることもない」
は続ける。
「これだけの材料だったら、たぶんここから考えが進まなかったと思う。でも、そこにフミが現れた。フミは、別の星からやってきた『ロボット』だ。『ロボット』は、きっとこの星にはまだない言葉だけれど、ぼくたちは知っていた。どうやらぼくたちの常識はこの星よりも、フミのいた『こことは違う宇宙の星』のほうの常識に近いらしい」
神さまは、微動だにしない。も、負けじと続ける。
「記憶がもどったベルナデットも、この世界とは別の世界から来たと言っていた。そしてこの世界に来たのは、願いが叶ったからだ、と。つまり、……世界はひとつじゃあない。フミがいた世界や、ベルナデットがいた世界があって、いまぼくたちがいるこの世界がある。でも、ぼくたちは、ベルナデットのように願いを叶えてもらったわけでも、フミのように、宇宙船に乗ってこの星にやってきたわけでもない。……ぼくたちが記憶を失う、まえとあと。つまりそれはぼくたちが悪夢を見せられる、まえとあとだ。変化があったとするなら、それは……」
証拠があるわけではなかったけれど。
その答えに、迷いはなかった。
は神さまに言った。
「別の世界からこの世界へやってきたこと。それが、ぼくたちが見ている『悪夢』だ」