「手紙の配達は、つぎで最後です」
ぱんぱんに膨れていた郵便屋のカバンも、すっかり平らになっていた。
あたりも暗くなり、街にはぽつり、ぽつりとガス灯の明かりがともされていく。
は、郵便屋にたずねた。
「最後はどこへ行くの?」
「街のすみに住んでいる、ルイスという街医者のところへ行きます。アルノから手紙をあずかっているんです」
それからしばらくして、たちはルイスの家にたどり着いた。
街医者と言っても、その家はほかの民家とさほど変わらないか、むしろ粗末といってもいいほどに、質素なたたずまいだった。
「……ルイスさんっていう人は、このおうちで患者さんの治療をするの?」
「いいえ。彼は患者のもとへとおもむいて治療を行う医者なので、この家は純粋に彼の住まいです。
この街にはほかに施療院があって、動ける元気がある人や、逆に入院が必要な重症の患者さんは、そちらで治療を受けます」
それから郵便屋は、家のとびらをとんとん、とたたいた。
「ルイス、いますか? フィリーネさんへの手紙を持ってきました」
しばらくして、メガネをかけた無愛想な男が家から出てきた。
男は裾(すそ)の長い上着を羽織り、身長は郵便屋よりも高い。
「……なんだ、この娘は?」
じろりとにらまれて、はあわてて頭を下げた。
「あっ、わたし、と言います!」
「ルイス、彼女は今日から僕の家で暮らすことになったです。、彼がこの家に住んでいる、医者のルイスですよ」
にこにこと笑う郵便屋とは対照的に、ルイスと呼ばれた男は深いため息をついた。
「……そんなに同居人を増やして、どうするつもりだ?」
「あはは、にぎやかなほうが楽しいじゃあないですか。……あ、この手紙、フィリーネさんに……」
「手紙を届けるのはおまえの仕事だろう、郵便屋」
そう言って、ルイスはふい、と家のなかへと入ってしまった。
郵便屋は、こっそりとに耳打ちした。
「どうぞなかへ入って、だそうですよ?」
「い、いいんですか?」
「だいじょうぶです、彼なりの歓迎ですから」
にっこりと笑う郵便屋に連れられて、はこそこそとルイスの家へと足を踏み入れる。
「ところで、その、『フィリーネ』さんって、だれですか? もしかして、ルイスさんの奥さん……」
「あはは、ちがいますよ。フィリーネさんは、こちらの部屋にいます」
そう言って、郵便屋は家へ入ってすぐ、右の部屋のとびらを開けた。