その少女は、まっ白だった。
髪も肌も服さえも、まっ白だ。
しかしいまは夕陽を浴びて、その白はわずかなオレンジ色に染まっている。
このままどんどんオレンジ色に染まっていって、やがて夕陽のなかに溶けていってしまうんじゃあないか、とは心配になった。
「……おまえ、何者だ?」
それが少女から発せられた言葉だと気づくまでに、は時間がかかった。
「……えっ、あ、ぼくのこと? ぼくの名前は、といいます」
こんなきれいな少女に、まさか目が合ってすぐ、『おまえ』呼ばわりされるとは思っていなかった。
内心動揺しながらも、はたずねる。
「きみは……だれ?」
少女はじっと、の瞳を見つめた。
そして、いままで読んでいた本を閉じると、に向き直った。
「私の名はベルナデットという。おまえ……は、はじめて見る顔だ。旅の者か? 行商には見えぬが」
ベルナデットの問いに、は頬をかいた。
「……実はぼく、記憶がなくて、ぼく自身もぼくがなにものなのか、わからないんだ。
でも、この街にぼくを知っている人はいないようだから、きっとちがうところに住んでいたんだと思う」
「記憶……喪失」
ベルナデットは、すこしのあいだ考えこんでいた。
「それは、いつからだ? どこで記憶を失った? ……まさか、『森』で、とは言うまいな?」
「……あ、やっぱりあの森って、なにかあるんだ? そういえば郵便屋さんが、森には神さまがいるって言っていたけれど……」
「いま、郵便屋と言ったな。……森に、記憶喪失に、郵便屋、か」
ベルナデットは、「なるほど」と小さくつぶやいたようだった。
なにかいけないことを言ってしまったのだろうかと、はそわそわとたずねた。
「あの……、なにかまずいことでもあった?」
「……いいや。郵便屋がすでにおまえのことを知っているのなら、話もはやい。は、今晩はどこに?」
「妹といっしょに、しばらく郵便屋さんの家で暮らすことになっているんだ。……妹も、ぼくと同じように記憶を失っていて」
「そうか」
ベルナデットはうなずくと、目を細くしてほほえんだ。
「それでは私も、今日はといっしょに郵便屋の家へ行くことにしよう」