たちは歩きながら、郵便屋に自分たちの事情を説明した。
ふたりとも、気がついたらこの森のなかにいたこと。
それまでの記憶がまったくなく、自分たちの名前しか思い出せないこと……。
ふたりの話を聞き終えた郵便屋は、ゆるやかにうなずいた。
「そうですか。……ふたりとも、災難でしたね」
そう言いながらも、郵便屋の歩みがゆるむことはない。
しっかりとした足取りで、落ち葉の上をさくさくと歩いていく。
「あの、郵便屋さん」
は、土のうえにむき出しになった木の根に足をとられないように注意をしながら、郵便屋に声をかけた。
「さっきの……郵便屋さんが花を供えたあの場所は、いったい何ですか?」
「あの場所は、この森の神さまが休む場所です。……街の人たちは、神さまを恐れてほとんどこの森に近づこうとはしないので、あなたがたがいたことには驚きました」
「……森の神さまは、恐ろしい神さまなんですか?」
がたずねると、郵便屋は困ったように笑った。
「そうですね。ちからを持っているということは、たとえそれがどんなちからであっても、恐ろしいことなのかもしれません」
郵便屋はそう言うと、はじめて足を止めた。
気がつけば、枯れ葉だらけの黒土の道が終わり、古い木の板が敷かれた道に変わっていた。
「……見えてきました。あの街が、僕の住む街です」
森は、小高い丘になっていたらしい。木々のあいだから、その街を一望することができた。
白色の壁に、立ち並ぶ赤茶色の屋根の建物。
街のまわりは森や山に囲まれていて、その一角には海が見えた。
郵便屋はふたりをふり返ると、ほほえんだ。
「、。……『ライナスの街』へようこそ」