「……うっ……ぅ……っ!」
詩良は這い上がる痛みに、ただひたすらたえていた。
そんな詩良を見て、鷲村はそこではじめて、詩良に興味を示したようだった。
「……どうして、命ごいをしない?」
鷲村の質問に答えるために、詩良は何度か大きく呼吸をした。
「……っは……、そ、そりゃあ、長生きは……したいよ?」
血も汗も、止まらない。
傷口は、まるで焼けた鉄を押し当てているかのように、熱い。
詩良はぐったりとしながら、それでも言葉にちからをこめて、言った。
「でもさ……、とつぜん目のまえに現れたあんたなんかよりも先に、思い出しちゃうんだよね……、
去年、この上の階から落ちて死んだ、同級生のことをさ」
ずっとこころの奥底にしまっていたものが、痛みといっしょにあふれ出す。
あのとき、悲しいなんて思わなかった。
あっさり死ぬなんて人騒がせなやつ、とさえ思った。
そうしてこの一年、自分で自分を罰することなく生きてきた。
正直者がばかを見る世のなかで、卑怯者の自分がみにくく生きのびた。
だから詩良は、ようやく与えられたこの痛みに、どこか安堵を覚えていた。
因果応報。
きっと自分は、待っていたんだ。
いやおうなしに、自分の罪を罰せられるこの瞬間を。
詩良は顔をあげると、汗となみだが交じった顔で、ほほえんだ。
「だからお兄さん、あたしのこと、……もっと傷つけていいよ」
またたきと同時に、なみだが頬を伝う。
死んで対等になれるなら。
それもまた、わるくない。