蒼太は緋色の言葉の意味を考えてから、首をひねった。
「それ、どういう意味? 姫野先輩は、探偵として問題があるってこと?」
蒼太の問いに、緋色は首を横にふった。
「深神先生はぼくが知る人間のなかで、いちばん優秀で、有能な探偵だよ。
でもそれ以上に、先生自身にとっての優先順位がすごくはっきりしている人なんだ。
だからもし、人命よりも優先されるようなことが出てくれば」
緋色はすこしだけ目をふせた。
「先生は人が大勢死んだとしても、目的をやりとげる。だからいま、先生に犯人の居場所を伝えることが、なににつながるか……」
「……でも、緋色。きみはその『深神さん』のことを、信頼しているんだろ?」
緋色がはっと顔をあげると、蒼太はほほえんだ。
「話を聞いていればわかるさ。そして、彼は信念を持って生きている人だってこともね」
そう言って、蒼太は図書室の窓のそとに目をやった。
だいぶ日がかたむいている。西の空が赤く染まっていた。
「……僕は、正しい人の行く道の正しさを、信じるよ。深神さんを信じる緋色のことを、僕は信じる」
緋色はじっと蒼太を見ていたが、それから自分の携帯電話に目を落とした。
「……あおちゃん、背中を押してくれてありがとう。ぼく、深神先生に連絡してみる」
「うん、それがいいと思う」
緋色は深神に電話をかけると、手みじかに犯人の居場所を伝えた。
しかし犯人が"姫野ミカミ"の情報をほしがっているという部分は、ふせたようだった。
電話を終えると、蒼太たちは中等部組のもとへともどっていった。
「……亀ヶ淵君、ほんとうにいいの?」
緋色がたずねると、新弥がうなずいた。
「下水流さんのことも心配だし、……僕、そろそろ行きます」