「ぼ、僕たちはどうしよう?」
「どうするもなにも、もうどうしようもないじゃん、亀ヶ淵」
「下水流さん、それもう開き直ってるでしょ……」
最後に二階の教室に残された新弥と詩良は、どこに行けばいいものか、思案していた。
「僕はこういうとき、無闇に動かないほうがいいと思うんだけれど……」
「あたしもそう思わなくもないけれどさ、少なくとも犯人はすこしまえまで、放送室にいたわけじゃん?
おんなじA棟にとどまるっていうのは、不安ではあるね」
言いながら詩良は、近くの椅子に腰をかけた。
「ただ、B棟に行くにしても、あの丸見えの通路じゃねえ……」
「B棟に行かないにしても、上の階のほうが見晴らしがいいし、ここよりも上の階に移動したほうがいいんじゃ……?」
「……って犯人が考えて、同じように上の階に向かったら?」
詩良に言われてしまい、新弥はだまりこんだあと、ぽつりと言った。
「……これがゲームだったら、簡単だったのに。理不尽なルールさえあれば、失敗したって、人のせいにできるんだけれどね」
「? ……どういう意味?」
「キャラクターを動かすよりも、自分を動かすほうがむずかしい、……ってことだよ」
「そうかなあ。あたしは気楽でいいと思うけれどなあ」
そして詩良は椅子の背もたれに寄りかかって、天井を見上げた。
「……そもそもこういうのって、神さまが用意したゲームなんじゃあないかなって思うんだよね。喜劇とか悲劇とかそういう高尚な話でもぜんぜんなくて、神様にとってはただのひまつぶしのためだけのゲーム。それで、あたしたちは使い捨てのコマでさ」
「……下水流さんでも、そういうこと考えたりするんだ。……もしゲームだとしたら、僕たちはどうして、生きているんだろうね」
「『生かされている』のまちがいじゃない?」
詩良はふっと笑って立ち上がると、教室の入り口のほうを見た。
「……それでも、長生きはしたいんだよね」
同じように新弥も扉のほうへ目を向けて、それからぎょっとした。
そこには、見知らぬ男が音もなく立っていた。