どこかに電話をかけていた緋色は、電話を切ったあとに蒼太を見て、困ったように笑った。
「あおちゃんに、先に校内を案内してもらっていて助かったね」
それから、すう、と目を細めると、廊下の向こうへと視線を向けた。
「……あおちゃんにはわるいんだけれど。ぼくはあえて、犯人との遭遇をはかりたいと思うんだ」
蒼太はおどろいて、目を見開いた。
「それは……、どうして?」
「ぼくにとっては、犯人のすがたは見えないより、見えていたほうがいいんだ。……ぼくは、『深神先生の助手』だから」
緋色は自信に満ちた顔でほほえんだ。
(深神先生って、……さっき電話をしていた相手のことか? それに、助手って……?)
蒼太には、もはやなにがなんだかわからなかった。
しかし、今後もこの笑顔に逆らえなくなるような予感はしていたし、
その予感がはずれることもなかったのだった。