気配(b)


一方、職員室に向かっていた兎沢と青空のふたりも、校内の異変に気がつき始めていた。

「……妙ね。生徒も先生もひとりもいないなんて、さすがにちょっと、おかしい……」

兎沢がそうつぶやいたとき、あわただしい足音が聞こえてきた。

「……小雨(こさめ)! すがたが見当たらないと思ったら、こんなところにいたのか!」

大声でさけびながらそこにやってきたのは、数学教師の狐塚だった。

「時間がない、はやく逃げるぞ! 西森妹も、はやく!」

状況が飲みこめない兎沢と青空は、言われたとおりに狐塚のあとを追って走る。
青空が息をきらしながら、狐塚にたずねた。

「こ、狐塚先生……っ、なにがあったんですか……っ!?」
「なにがあった、って……、おまえら、さっきの校内放送が聞こえなかったのかよ!?」
「ああ……ごめん、視聴覚室のスピーカーの電源を切ってて……」
「……ッバカか、こんなときに……っ!!」

三人が校門のそとに出ると、月見坂学園はすでにたくさんの人だかりに囲まれていた。
そのなかには、月見坂の制服を着た生徒たちも大勢いる。

しかしその人々は、青空をひと目見た瞬間、わっ、と声をあげてその場から遠ざかった。
兎沢が青空をふり返ると、彼女の両手にはまだ抱えたままの段ボール箱があった。

「あら……西森さん、それ、置いてきたらよかったのに」
「す、すみません、気が動転しちゃって……、あの……、でも、どうしてみんな、逃げちゃったんですか?  ……というより、いったいなにが起こって……」
「みんな、その段ボール箱の中身を『爆弾』だと思ったんだろ」

狐塚はけわしい顔で、校舎をふり返った。

「さっき、おかしな男が学園内に侵入したんだ。……なんでも、この学園内に爆発物をしかけたらしい」