玲花は空調の効いた図書館の一角で、鞄のなかをひっくり返していた。
「おかしい、一枚足りない……」
メモしたはずの書類がどうしても見つからない。
もしかすると、きのう人とぶつかったときに、なくしてしまったのかもしれない。
一瞬、編集長の朝本に怒られる場面を想像して、あわてて首をふる。
「……あの会社は、もう辞めたんだから」
しかし、いままでは自分のミスの責任も朝本が背負ってくれていたことを、玲花はいまさらになって気がつき始めていた。
きのう会社を飛び出してから、会社にはなんの連絡もしていないし、なんの連絡もきていない。
無断欠勤あつかいかもしれないし、すでにクビになっているかもしれない。
どちらにしても、いまからなに食わぬ顔で仕事に復帰することはむずかしい。
……この事件の原稿が書き終わったら、それを朝本に渡してきちんと会社を去ろう。
たとえその原稿が使われず捨てられたとしても、それでいい。
やり始めたことは、最後までやる。
それだけだ。
玲花はうで時計で時間を確認すると、十五時を回ろうとしていた。
「……もうこんな時間か」
結局『姫野ミカミ』についても、自分で調べてわかるようなことはなにもなかった。
在学中にあれだけ存在感をはなっていた彼も、卒業後の消息は不明なのだった。
きのう見かけた、深神探偵事務所。
やはりあそこに、頼ってみよう。
玲花は書類を鞄につめこむと、深神探偵事務所へと向かった。